初心のつもりで舞台を作り続けたい
がんの手術後に、名前の「亜」を旧字体の「亞」に変えたことも話題になった。
「僕はリセットが大好きなんです。毎回リセットしていかないと、物事が新鮮に見えなくなったり、わかったつもりになる裸の王様化するかもしれない。そうなった段階で、あっという間に演劇は死ぬと思っています。毎回ゼロから初心のつもりで舞台を作り続けたいので、がんサバイバーになったことをきっかけに、名前を変えて、気分を変えて、次の一歩へ進むことにしました。みなさんも、しがらみにとらわれずに、名前を変えたいならいくらでも変えればいいと思いますよ」
今年はコロナ禍を受けて、YouTubeで『上を向いて歩こう』を歌い紡ぐプロジェクトも立ち上げている。
「僕も舞台の仕事がなくなって、収入も途絶えた状況でしたが、人類の歴史を振り返ると、苦難なときにこそ、すごい作品やアイデアが生まれてきたのだと感じます。
僕もこんなときだからこそ、エンターテイメントの精神を発信したくて、コロナと闘っている人や医療従事者、不安を抱えている人たちに希望を感じてもらえるプロジェクトを企画したんです。
市村正親さんや大竹しのぶさんらの著名人の方に直接無償でお願いしました。芸能界でそんなことはルール違反だとはわかっていましたが、たくさんの方に賛同いただけてうれしかったですね。
一緒に乗り越えようという連帯の意識が、みなさんの希望の光になればいいなと思いました」
コロナ禍で心が折れる人が増えることが想像できたからこそのプロジェクトでもあったが、「死なないで。生きていたら絶対いいことがあるから」とエールを送りたい気持ちが強かったという。
また、今回の著書では、奔放な家族とのエピソードや、恋人との別れなど、かなり壮絶で赤裸々な事実も綴っている。
「これまで常識だと思っていたものが揺らいだり、軸だと思っていたものがなくなったときに、不安を感じる人はわっと増えます。僕も10代のころに自殺未遂を起こしたことがあり、死にたくなる人の気持ちがよくわかるんです。今でも死んだらラクになれるなと思うこともあります。でも、必ず後からいいことがやってくるものなんです。そして、苦難の中にも笑えることはある。人生の悲劇は、見方を変えれば喜劇にもなるんです。だから、どうかここで折れないでほしいという気持ちを本にはしつこく込めました」
書内には、そんな彼の寄り添う思いにあふれたフレーズが、随所にちりばめられている。
「僕も年を重ねて、肉体が以前ほど動かなくなりました。また、がんが転移したりするかもしれない。このような不安にかられたときには、支えとなる言葉や思いを必要とします。同じように、みなさんがつらい気持ちを感じたときや不安なときに、この本をペラペラっとめくってもらって、元気になってもらえるとうれしいですね」