弱い立場の人に寄り添える
「受刑者の過半数は、違法薬物と窃盗による犯罪です。麻薬や覚せい剤による薬物依存はすぐに想像できるけど、窃盗もクレプトマニア(=窃盗癖)という依存症が関係している場合があります。薬物や酒を買うために窃盗を繰り返し、あげくに家族や周囲に暴力をふるうこともある。犯罪と依存症は表裏一体なんです」
受刑者の矯正医療にかかわることは、依存症と向き合うことにつながる。その思いが、おおたわさんを突き動かした。
『情報ライブ ミヤネ屋』で共演していた、読売テレビの春川正明さん(59)が話す。
「彼女がこの仕事を始める前、テレビ局で相談を受けました。法務省の矯正医療について知りたいと。私自身、取材経験があったので、報酬が少なく、過酷な医療で、なり手が少ないことを率直に話しました」
それでも、春川さんは「やってみては」と背中を押した。
番組内でのおおたわさんのコメントを鑑(かんが)み、「向いている」と直感したからだ。
「例えば、芸能人が違法薬物で逮捕されたときも、彼女はいっさい非難せず、治療法や、回復に必要な道筋をコメントしていました。弱い立場の人に寄り添えるっていうのかな。適任だと思えたんです。なぜ、それができるのか、今回、お母様のことを著書で知って、なるほどと思いました」
今年9月、『母を捨てるということ』(朝日新聞社刊)を出版。薬物依存症の母親との凄絶(せいぜつ)な日々を赤裸々に綴(つづ)り、大きな反響を呼んでいる。
おおたわさんが話す。
「初めて刑務所を見学して、依存症の話が出たとき、1を聞いて10を理解できたというか。母との経験があったからですね。私にもできるかもしれないと思ったんです」
1964年、東京の下町、葛飾区で開業医のひとり娘として生まれ育った。
「私はファザコンです。スーパーファザコンかな(笑)」
広島出身の父親は、早くに両親を亡くし、貧しい中、医師を志した苦労人。
おおたわさんが生まれる前年に、自宅兼、診療所を開院してからは、深夜でも急患があれば往診かばんを抱えて飛び出していくほど、献身的に地域医療に取り組んでいた。
一方、元看護師の母親は、父親とは対照的に、自宅にこもりがちだったという。
「母は頭痛や腹痛もちで、鎮静剤を飲んでは寝ている時間が多かったんです。起こすと機嫌が悪くなるので、そっと寝顔を見ていたものです」
幼稚園の弁当作りも、「おかえり」と迎えてくれるのも、通いの家政婦だった。それでも、「ママは、身体が弱いから」、おおたわさんは自分に言い聞かせていた。