コロナ禍で家出、新しい環境へ

 今年1月の記事で紹介した湊うさみんさん(36)は、コロナ騒動のさなか、家を出ていた。ツイッターで「今日は野宿か」と書いているのを深夜、偶然見て思わず「どうしたのですか、大丈夫ですか」とメッセージを送った。

 うさみんさんは、さまざまな生きづらさを抱えながら実家で両親とともに暮らしていた。顔を合わせれば「働け」と言われていた時期もあったようだ。相当なプレッシャーを感じていることはインタビューでも想像がついた。

「コロナ禍で父親の不機嫌が限界に達し、『働きもせず家にいやがって』と聞こえよがしに言うんです。もうここにはいられないと思って」

 家を出てネットカフェや友人宅に泊まり、運よく世話をしてくれるNPOとつながって住居(施設)を確保した。生活保護も下りたという。

「洗面所などは共用なので、人と顔を合わせないよう、いつ出ていけばいいかタイミングを見計らうのが疲れます」

 繊細なうさみんさんは、新しい環境に戸惑いを見せつつも、「精神の自由を得たことで、ようやく落ち着いています。もう少し生きてみます」とメッセージをくれた。

 こんな時期に思い切ったことをすると驚いたが、「こんな時期」だからこそ、うさみんさんの中で何かが切れたのかもしれない。ひとりになって精神的に自由を得たうさみんさんが、これからどうしていくのか興味が尽きない。

「このままがちこもりに戻りたくない」

 一方、家から出られないことで不自由や不安を感じている人たちもいた。当事者たちの「居場所」や「集会」が軒並み中止となり、数少ない外出の機会を奪われたことが怖かったのだと思う。外に一歩も出られないことを彼らは「がちこもり」というのだが、「せっかく居場所につながって、自分の気持ちを話せる場を得たのに、このままがちこもりに戻りたくない」と言う声も聞こえてきた。

 コロナ禍、居場所をなくした人のために、オンラインでの集会があちこちで開かれていた。いくつかにZOOMで参加してみたが、結論からいえば、私はまったくなじめなかった。ひきこもり当事者たちにとっても賛否両論だったらしい。

ひきこもり当事者たちはネット環境が整っていない人が多い」と話してくれたのは、ぼそっと池井多さん(57)だ。彼もZOOMで当事者会を主催したが、そもそも「参加したいけど参加できない」という人がかなりいたらしい。

ひきこもりの支援を国が考えているのなら、行政が新たな居場所など開設するよりも、すでに機能している当事者活動を後方支援すればいい。そして、貧困層が参加できるように、スマホやタブレットを該当者に配布すればいい」

 と彼は言う。ひきこもり当事者たちの実態を考えると、ウィズコロナの状況ではまずそうしたことが就労支援よりよほど優先されるべきだろう。