ペコちゃんが人々にかける「魔法」
管理業務部・販促企画課の瀧澤美空さんが服装へのこだわりをこう明かす。
「“かわいい”だけではなく、驚きと興味を持ってもらえる特長のある衣装でないと採用されません。毎日店舗の前を通る人を飽きさせないために1度採用した衣装とかぶらないようにチェックもします」
2000年代までは、子ども服のトレンドファッションを意識。2010年代以降は、SNSが盛んになったこともあり、ハロウィン市場で定着したコスプレタイプの衣装、ゆるキャラブームを意識した着ぐるみ衣装なども取り入れ、見る人がつい写真を撮りたくなる衣装を心がけてきた。
同社にはペコちゃんあてのお便りやSNSでのメッセージも寄せられるという。広報室の橋詰明子さんは、お客様サービス室に届いた心温まるエピソードを話してくれた。
「あるお客様が施設に入居されることになり、長年連れ添ったペコちゃん人形を処分するなんてできないからと、弊社に寄贈してくださったんです。現在も、そのペコちゃんは不二家秦野工場内に展示されています」
ひとりの高齢者の生涯に寄り添い続けたペコちゃんは今、世の中を癒すお菓子作りのために働く従業員たちのそばで、またにっこり笑う。
ペコちゃんに心をつかまれた人々が彼女を長く愛してしまう秘密はどこにあるのか。
入社以来、社内外で多くのペコちゃんファンを見てきた橋詰さんの答えは明快だった。
「ペコちゃんの顔を見ると、誰もがたちどころに微笑んでしまう。そんな魔法があるのではないかと思えるときがあります」
その言葉に、前出の“ペコラー”ユキさんから聞いた話が蘇る。彼女が大切に保管しているペコちゃんグッズの数々──その中には、ペコちゃんの母子手帳カバーが置かれていた。
「お腹のなかにいるときに亡くなってしまったんです。生きていたら、ペコちゃんのオーバーオールを着せたかったですね。きっと私と同じペコラーに成長したはずなので」
すでに性別も確認できる週数に入っていた矢先の悲劇。母ひとり娘ひとり、シングルマザーで育てる決意も希望も一瞬で消え去り、悲しみに暮れたという。
亡くなった娘さんとの思い出がペコちゃんに重なり、つらくなることはないか。そんな踏み込んだ質問にも、ユキさんは穏やかに答えてくれた。
「つらかった日々もありますが、やっぱりペコちゃんを見ると心の底から元気になれるんです。幼いころ、両親がイベントのときに不二家のケーキを買ってきてくれました。
私にとってペコちゃんは、楽しい記憶。今でも、亡くなった子のためにペコちゃんの洋服を買ったりします。私もペコちゃんコーデをするので、生きていたら親子で楽しめたかなと想像することはありますよ」
悲しみを乗り越えるとき、常にユキさんの傍らにはペコちゃんが笑っていて、背中を押してくれたという。