また同ファンドの代表理事で、1994年から路上生活者支援に取り組む稲葉剛さんも、ぱぃちぃさんたちの活動それ自体には理解を示す。
「現場に足を運んでいることは評価できることです。私も大学(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科)で学生に教えるとき、よく『現場に行きなさい』と言います。ただ行った先では自分もまた見られている、自分も問われているという双方向性の関係に身を置くことが大事だと伝えています。
誰しも何らかの問いを持って、調査や取材のために現場に行くのでしょうが、そこには“社会問題”や“異文化”が転がっているわけではなく、社会的状況に巻き込まれた一人ひとりの人間が暮らしている。そのことを忘れなければ、自分も相手から見られていて、逆に問われている存在である、という意識が生まれるでしょう。Cakesの記事にはそういう問い返しがないため、多くの人の気持ちをささくれ立たせたのではないでしょうか」
定住型のホームレスは減っているが
ツイッターでも「まるで珍しいものを見るかのよう」だと、ぱぃちぃさんたちの立ち位置に不快感をツイートする人が多かった。
とはいえ、3年間の現場での経験は貴重だし、ホームレスの人たちの暮らしを文化として伝える人はこれまでもいた。おふたりには今回の炎上から学んだことを加味して発信を続けてもらいたい。
その一方で、ぱぃちぃさんたちが書いていたようなテントや小屋などを建てて定住するホームレス状況にある人たちは、特に都市部では減っていて、また別の過酷な状況があるのだという。
「記事にあるような定住型のホームレス状況にある人は減っています。仕事が得られたときに1日働いて数千円の収入を得て、お金に余裕があるときはネットカフェ泊り、少しだけあるときはマクドナルドなどの24時間営業のファストフード店で寝て、まったくお金がないときは路上で寝るという不安定な状態の方が増えています」(佐々木さん)
以前は、都内の大きな公園には100軒や200軒のテント村があり、それなりに自治があったり、相互扶助もあって、そこで生きる人は大勢いたそうだが、定住層は減り、街を漂流する移動層が増えている。定住層が減ったのは2004年~2009年に東京都が行った事業にあると稲葉さんは言う。
「2004年~2009年に東京都が『3000円アパート事業』として、公園や河川敷などにブルーシートのテントなどを張って定住する人たちを対象に3000円の家賃でアパートに移ってもらう事業が行われたんです。そのときに1900人以上がアパートに入って、定住型のホームレスの人は激減しました。
ただ、これも問題が多くてアパートを提供しつつも公園に24時間警備員を駐在させ、新たにテントを張れないようにしました。その後はオリンピック招致のために排除は静かに進み、柵を設けて夜間施錠して入れなくしたり、ナイトパークと称してライトアップを24時間して寝られなくしたり。そこでテントを張れない人たちは沿道の茂みの中など見えない所、見えない所へと追い込まれてしまったり、街を漂流するように暮らしています」