坂下千里子バラドル最強説

 その無邪気さは『ノンストップ!』でも発揮されており、11月16日の放送ではこんな場面が見られた。イタリアの格言「ナポリを見てから死ね」を言おうとして「ローマは一度見て死なないとダメ」「ナポリでした」「一度見てから死んで!」などとグダグダに間違え、自ら苦笑していたのだ。

 国際情報番組を5年以上やっているのに、このレベル。というのは、むしろ彼女の強味だろう。視聴者の多くも「ちょっとうるさいけど、にくめないキャラ」として見ているのではないか。

 そんなところを買われて、昨年11月「即位礼正殿の儀」が行われた際にはNHKの生放送特番に登場。歴史学者や皇室記者らと並んでコメントしたものの、

天皇と雅子さまの表情に注目したい

 という行き届かない敬語表現などから、場違いではという声も出た。が、その一方で、あえて「庶民」代表として彼女を起用したことを支持する声も。実際、NHKもそこを狙ったのだろう。つまり、究極の「庶民」タレントを混ぜることで、視聴者に親しみを抱かせ、儀式のおごそかさも際立たせるという狙いだ。

 ただ、芸能界で20年以上も売れていたら、多少はセレブっぽくもなるものだ。にもかかわらず、彼女がそうならないのはなぜかといえば、ある種の下世話さをブレずに持ち続けているからなのかもしれない。

 たとえば、彼女は10数年前「4股」を暴露されたり「8股」疑惑が浮上したことがあった。真相は不明だし、それ以外に大きな恋愛スキャンダルはないが、この過去がむしろプラスに働いている気もする。というのも、下ネタ武勇伝のある女性タレントは意外と強いのだ。

 一例を挙げるなら、松本明子がいる。女性器を意味する放送禁止用語を言ってしまって、アイドルからバラドルに転じ、ここ数年はどケチエピソードで生き残っている人だ。こちらも「庶民」タレントの代表である。

 これはおそらく、下ネタを言ったり、言われたりすることが、ちょっと恥ずかしい部分も含めてすべてをさらけだしているようなイメージにもつながるからだろう。そこから親しみも生まれるし、自分たちと同じ人間くささを感じさせる。視聴者はスターに憧れつつも、そんな下世話さも好むのだ。

 ところで、今後、坂下を継ぐようなバラドルは現れるのだろうか。個人的に期待しているのは、須田亜香里(29)だ。バラエティー番組での彼女はとにかく貪欲で、トークの現場処理能力も高い。

 11月20日の『生放送だよ!ワンチーム落語』(BSテレ東)では、変顔を連発。「これ以上、ブスになりたくない」と自虐的に笑わせていた。なんとなく、坂下も言いそうな台詞だ。バレエ経験があるところも似ている。

 とはいえ、坂下の年齢までいくにはまだ15年、頑張らなくてはならない。バラドル・坂下千里子の長寿ぶりは、やはり特筆ものなのである。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。