在宅ワーク中に『ズンズンズン』と──

 工事現場周辺では春ごろから異変が起きていた。近くの川に謎の気泡が浮かんできたり、夏ごろからは騒音や振動の苦情も報告されている。

 同社が道路陥没の原因を探るためにつくった有識者委員会は、川の気泡については工事との関係性を認めている。騒音や振動についても、工事と関係している可能性があるとしている。

 しかし、周辺住民の話を聞くかぎり、可能性は「ある」どころか「大いにある」と言わざるを得ない現象が起きていた。

 男性住民は、地下深くでトンネル工事が進んでいた9〜10月ごろの異変をこう振り返る。

コロナ禍で在宅ワークをしていると、どこからか『ズンズンズンズンズン……』と速いテンポでリズミカルな低音が聞こえてくるんです。音だけでなく振動も伝わってきました。最初は“近所で工事でもしているのかな”と思ったのですが、家の外に出ると音が聞こえなくなるんです。午前9時ごろから午後8時ごろまで継続的に聞こえるのでストレスを感じ、仕事にも集中できないためカフェまで出かけてやるようにしました。

 それなのに近くのどこにも工事をしている家はない。近所の人も同じような音と振動に悩まされていて、一日中家にいた人はつらかったはずです。いろいろ調べて、その頃、このへんまでトンネル工事が進んでいることを知り、ひとまず原因がわかって少し安心したことを覚えています」

 やがて音は聞こえなくなった。しかし、近くの路上で道路が陥没したのはその約7~10日後だったという。

「住民説明会では、陥没や地中空洞があった事実とやっている調査の説明だけで安心材料は何も示されませんでした。トンネルは逆方向にもう一本掘る予定になっているのに。いま振り返ると、音がおさまったあと毎日のように近くで作業員が測量をしていました。何か予兆をつかめていたのではないか、と疑念を抱きたくなります」(同住民)

 この男性住民が言うように、陥没現場周辺では複数の住民が「ドンドンドン」「ズシッズシッズシッ」などと表現は異なるものの不審な連続音を聞いていた。

 陥没現場近くに住む弦楽器製作者の尾竹正一さん(91)は「ビューン」という音を半地下の仕事部屋で聞いたという。

電動ノコギリのような音で、近所のお宅に大工さんが入っているものと思い込んでいました。道路が陥没した日は『ザーッ』という音がして、近所の人たちが集まっているのをみて陥没を知ったんです。ボコッと大きな穴が開いていて怖かった。自宅を建てて40年、こんなことは一度もありませんでした。トンネル工事の安全性について“絶対に大丈夫です”と言っていた矢先の出来事です」