「まだ19歳だから」という意見もあろうが、されど19歳である。決めつけるのもどうかと思いつつ、それでもイマドキの19歳、それも芸能人なら、一般的にはもっと「女性性」を発していてもおかしくない。

 また森七菜に対する私の目線も、一般的な女優に対するそれではなく、娘、さらには孫を、目を細めて見つめているような感じになっている。この「女子性」への目線は、中高年男性の「森七菜ファン」に共通するものではないだろうか。

 続く森七菜の魅力は、卓越した演技力である。とりわけ驚くべきは、その演技力の幅広さだ。『エール』での抑制的な演技から、『この恋あたためますか』での賑やかな演技まで、演技者としての守備範囲が異様に幅広い。

 その背景には、演技に対する森七菜自身の意識の高さがある。サイト『CINRA.NET』の「森七菜インタビュー 巨匠たちを惹きつける純粋さ、聡明さ、心の穴」(2020年1月15日)での発言は、彼女の「演技観」を端的に表している。

「私が目標としている女優さんは、満島ひかりさん、二階堂ふみさん、杉咲花さんなのですが、みなさん映画を観終わったあとも、『この登場人物は、まだどこかで生活しているんじゃないか?』と思わせてくれるような、そんな演技をされる方たちなんですよね。私自身もそういうお芝居ができたら本望だなって思います」

 満島ひかり、二階堂ふみ(『エール』で共演)、杉咲花という人選にセンスがあふれているし、「この登場人物は、まだどこかで生活しているんじゃないか?」という個性的な言葉遣いには、森七菜のみずみずしい「演技観」が見て取れる。

 また、このインタビューでは、中学生の頃から脚本家・坂元裕二のファンで、トークショーやサイン会にも足を運び、坂元脚本ドラマの好きなシーンのセリフを、テレビを見ながら書き起こしていたという、ほほ笑ましいエピソードも披露されている。

 つまり、森七菜の演技力には、もちろん天性の感覚も寄与しているのだろうが、それ以上に、演技に対する意識の高さや、脚本を書き起こしするような勉強熱心さが寄与しているのであって、こういう健気(けなげ)なバックボーンも間接的に作用しながら、中高年男性の心をわしづかみしているかもしれない。

情報量の多い芝居の凄み

 さらなる魅力の源として、森七菜の演技そのものを分析してみたい。分析にあたって示唆を与えてくれるのは、『ORICON NEWS』の記事「『本当に魅力的な森七菜がそこにいる』中村倫也、仲野太賀が絶賛する芝居力」(2020年10月14日)にある、『この恋あたためますか』の共演者・仲野太賀の発言である。

「見ていただければわかりますが、森七菜がすてきです。森さんは独特の情報量の多い芝居をするんですが、伝わり方がすごいです。うまく言葉にできないですが、引っ張ってもらっています」

――「情報量の多い芝居」。

森七菜の言葉遣いも素晴らしいが、仲野太賀のこの言葉遣いも素晴らしい。そして、この言葉は、森七菜の演技の魅力を紐解くキーワードとなるだろう。