山口百恵さんとの共通点
一度も再結成しなかったことも伝説化の理由に違いない。解散後、それぞれのソロ活動がうまくいかないことなどを背景に再結成したグループは数え切れない。
一方、キャンディーズは「普通の女の子に戻りたい」(1977年、伊藤)という言葉こそ後に反故にしたが、再結成は噂すらなかった。そもそも伊藤の言葉の真意も「アイドル(偶像)から降りたい」ということだったのではないか。
山口百恵さん(61)がいまだカリスマ性を持つ背景にも復帰しなかったことがあるはず。絶頂期の1980年に引退すると、以降はカムバックの気配もなかった。1970年代のアイドル界を牽引した百恵さんとキャンディーズは相似性を感じさせる。
ファンや視聴者の心理は複雑だ。解散や引退は寂しく、戻ってきてほしいが、いざ本当に帰ってくると、興ざめする一面がある。
田中さんの逝去から約10年。もうキャンディーズの再結成はあり得ないが、伊藤は2019年5月、解散から約41年ぶりに歌手活動をソロで再開した。
その際、本人はインスタグラムにこう書いた。
「私のような年齢になってから、このような素適な機会を授かった事にただ感謝するばかりです」
控えめな言葉だったが、ソロデビューアルバム『My Bouquet(マイ・ブーケ)』はオリコンの週間チャートで8位に入った。同6月のライブでは『年下の男の子』などキャンディーズの歌も披露。3人の歌は伊藤が歌い継いでいくのだろう。藤村さんの弔辞ではないが、「永遠のキャンディーズ」を証明するかのように。
伊藤にはほかにも話題がある。長女の女優・趣里(30)が今年、『私の家政夫ナギサさん』(TBS)に多部未華子(31)扮する主人公の妹役で出演し、評価を高めた。母親として鼻が高かったのではないか。
一方、藤村さんは1983年に一時的に歌手に復帰したが、ほどなく音楽製作会社の代表と結婚し、引退。長女はやはり女優で、劇団青年座に所属する尾身美詞(36)だ。
かつて美詞は筆者の取材にこう話していた。
「母たち3人は本当に仲がよく、3人ともキャンディーズが大好きでした。母が大切にしている思い出を、ファンのみなさんも記憶に留めてくれているということは、素敵なことだと思っています」
3人にとってキャンディーズは紛れもなく青春そのものだった。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立