驚愕の年下の“彼氏”の存在が……
それにしても、撮影のためにマンション近くの公園で朗らかにブランコを漕ぎ、
「嫌いなやつの名前を、ひどい目に遭う登場人物につけちゃう」
と笑うレディコミ女王は、若い。創作意欲から何から、まったくもって生涯現役という言葉がぴったりだ。
「年齢は、どうしようもない数字。心が若けりゃ、いいじゃない」
なるほど、確かに井出智香恵が平成などに生まれていれば、親は物わかりよくなければならず、漫画家を目指すといえば応援し、投稿や持ち込みなどしなくてもネットを駆使して、たちまち自宅に居ながらにして人気を博していたかもしれない。
そういうデビューをする漫画家、そんな存在の漫画家は現にいるし、それはそれで職業として成り立ち、よい作品も生み出しているが。
はたして、そのような道をたどった後に、レディコミ女王の井出智香恵は今このような存在であっただろうか。『羅刹の家』は、生まれていただろうか。
しかしレディコミ女王はちゃっかり、娘たちに勧められてハマったネットゲームで知り合った男性とバーチャルな出会いと恋愛も楽しみ、現に今は彼氏といっていい子どもたちくらいの年代の男性がいるという。
女王の居心地よさげな仕事部屋には、大ファンだという氷川きよしのグッズが目につくところに飾られている。
簡単に回転できる椅子は、女王が座ったままくるっと半回転するだけで、一瞬のうちに仕事机とパソコン机を入れ替えられる。
「娘たちがゲームにハマってて怒ったら、お母さんもやってみなよと引きずり込まれたの。今じゃ、私のほうが夢中」
くるくると仕事とゲームを入れ替え、しかし椅子は一つで位置はぶれない。
「すごーい年の差があるのね、今の彼氏は。しかも、ゲームの世界では“夫婦”役」
その経験を作品化するかどうかは聞きそびれたが、そのままでなくても作品に生かすことは間違いない。
そしてなんと。次号からはこの『週刊女性』で実に32年ぶりに連載を再開する。女王の再降臨だ。令和に毎週、井出智香恵の作品が読めるとは期待感しかない。
まったくもって、何もかもが生涯現役のレディコミ女王。
しかしその目のキラキラさは、レディコミではなく少女漫画なのだった。
◆特別寄稿 作家・岩井志麻子
いわい・しまこ 1964年、岡山県生まれ。少女小説家としてデビュー後、『ぼっけえ、きょうてえ』で'99年に日本ホラー小説大賞、翌年には山本周五郎賞を受賞。2002年『チャイ・コイ』で婦人公論文芸賞、『自由戀愛』で島清恋愛文学賞を受賞。著書に『現代百物語』シリーズなど。最新刊に『業苦 忌まわ昔(弐) 』(角川ホラー文庫)がある。