岩下はインタビュー中も常に朗らかで、身ぶり手ぶりを交え撮影の思い出を語ってくれた 撮影/矢島泰輔
岩下はインタビュー中も常に朗らかで、身ぶり手ぶりを交え撮影の思い出を語ってくれた 撮影/矢島泰輔
【貴重写真】夫・篠田正浩監督との結婚式での和装姿、生まれたての長女を囲んでの家族3ショットほか

女優・岩下志麻と“篠田志麻”は違う?

 一昨年から、夫婦はそれぞれ断捨離にいそしんでいる。今後の暮らしを考えて、自宅をリフォームするためだ。

年齢を考えて、もう少し暮らしやすい家にしようと思って。ずいぶん断捨離しましたよ。とはいえ、捨てるのはやはり気が咎(とが)めるんですよ。だから、いーっぱいあったスチール写真や台本、ポスター、パンフレットなどは、必要なものだけ事務所に残して。あとは松竹さんの大谷図書館が引き受けてくれることになったので、ホッとしています。

 お雛様は保育園に寄贈して、洋服やアクセサリーも7、8箱分、似合いそうな友人・知人に差しあげました。花嫁衣装も、打ち掛けだけ手元に置いてスタイリストさんに引き取ってもらって。私の打ち掛けは今までに、近しい女性7人の結婚式で役立ててもらったんです。誰も離婚していないんですよ、縁起がいいの

 篠田氏も、本や資料などを「しぶしぶ」整理しているという。

「昔の資料を見つけては“こんなのが出てきたよ”と私を呼ぶんですよ。そのたびに2人で“懐かしいね”なんて言ってるものだから、なかなか整理が進まない(笑)」

 それもまた楽しと言わんばかりに、岩下は微笑(ほほえ)む。

 夫の書斎は1階に移したが、岩下の自室は2階のままだ。

「2階にあるほうが運動になると思って、あえてそのままにしました。例えば、取りに行かなければならないものが3つあったら、わざわざひとつずつ取りに行くんです。階段の上り下りが増えるから、自然と足腰が鍛えられるでしょ」

 岩下志麻は、どこまでもストイックなのだ。本名・篠田志麻さんから見た女優・岩下志麻は「一生懸命がんばってると思う」そう。逆に、岩下志麻から見たひとりの女性・篠田志麻さんは……。

「篠田志麻さんはグズというか、だらしない(笑)。私がずっと篠田志麻でいたら、きっと朝もきちんと起きず、1日じゅうダラダラと過ごしているんじゃないかしら。今はまだ、岩下志麻がそれを制しているけれど」

 たとえ出かけなくても、岩下は朝早く起き、バランスのいい食事をきちんと3食とり、家の中をこまこまと動き回っている。それは彼女が生涯、岩下志麻という女優であろうとする意志のあらわれなのではないだろうか。

「でもね、“~せねばならぬ”という考え方はしないようにしているんですよ。何かを習慣にするのはいいけれど、あまりにもこだわると自分がつらいでしょ。どこかで『ケセラ・セラ精神』を持っていないと疲れちゃいますから」

(取材・文/亀山早苗)


【PROFILE】
岩下志麻(いわした・しま) ◎1941年1月3日、東京都生まれ。両親が新劇俳優の家庭で育ち、17歳のとき、NHKドラマ『バス通り裏』で女優デビュー。'60年、成城大学入学と同時に松竹に入社。さまざまな映画作品に出演し活躍の場を広げる中、'67年に篠田正浩監督と結婚し、同年、2人で独立プロ『表現社』を設立。これまでの出演作は120本を超え、『はなれ瞽女おりん』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、『五辨の椿』ではブリーリボン賞主演女優賞を受賞。趣味は陶芸やプロ野球観戦など。

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【筆者】
亀山早苗(かめやま・さなえ) ◎1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに恋愛、結婚、性の問題、また、女性や子どもの貧困、熊本地震、ひきこもり問題など、ノンフィクションを幅広く執筆するほか、インタビュー記事も多数手がける。著書に『人はなぜ不倫をするのか』(ソフトバンク新書)、『不倫の恋で苦しむ男たち』(新潮文庫)などがある。