佐々木さんは「困窮者支援のオードリー・タン」
お正月。誰もが家でのんびりとテレビを見て、おせちやお雑煮を食べているときだ。それなのに、東京のド真ん中で大勢の「おなかを空かせた人たち」が集まってきている。佐々木さんの言うとおり、それは本当に衝撃だ。
「『大人食堂』自体は元々、労働相談などを請け負うNPOのPOSSE(ポッセ)が仙台で始めたもので、名前を借り、昨年からいっしょに始めました。路上にダンボールハウスを建てて暮らすホームレス状態の方より、ネットカフェや24時間営業のファストフードなどに寝泊まりしては派遣などの仕事へ行く、これまでとは違うタイプのホームレス状態、生活困窮の方々がコロナ禍の前も増えていました。
そうした方は公園などでの炊き出しにはいらっしゃることがほとんどないので、美味しい料理を用意して、相談に来やすい雰囲気を作ろうと、『ビッグイシュー日本版』(ホームレスの人たちの仕事作りのために路上で販売されている雑誌)で連載もされている、料理研究家の枝元なほみさんにお願いしてお料理を作っていただくことになり、始まったんです」
枝元さんたちが数日前から下ごしらえして、当日その場で調理したお弁当は、ご飯の上に野菜の煮たものやサラダ、お肉などが乗った、それはそれはおいしそうなもの。麺類や、具沢山のスープもあった。お正月、食べるものに困っていた人たちのお腹と心をどれだけ温かく満たしたろうか。すばらしい試みだ。
ところで、佐々木さんはこうした困窮者支援の現場で次々と新しい試み、特にIT技術を使ったアイディアで革新的な事業を次々に始めていて、「困窮者支援のオードリー・タン」とも呼びたい人だ。
「これまで困窮者支援の現場ではITは有用じゃありませんでした。大きな支援団体なのにSNSアカウントさえ持っていなかったり。僕は2013年から『もやい』(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい。都内の生活困窮者支援団体)で主にウェブ広報を担当する職員になり、ホームページのリニューアルやSNS運用のスタート、クラウドファンディングを利用するところにも立ち合いました」
2014年には「つくろい東京ファンド」の創設に加わり、すぐに“支援する側”の人たちを紹介するサイト『マチバリー』を立ち上げた。
「“生きるを支える人を応援するメディア”というインタビュー・サイトを立ち上げたんですが、そこで見えてきたのは支援団体の不均衡でした」
都内に限らず、日本全国には生活困窮者を支援する団体が多々ある。最近では「こども食堂」があちこちで善意のもとに広がってもいるが、
「貧困があらゆる層に拡がる中、たとえば子どもや女性を支援する団体にはお金が集まるのに、ホームレスの男性を支援する団体にはお金が集まらなかったり、そこに不均衡があったんです」
佐々木さんは「不均衡の情報」を都内で活動するNPO団体の代表らと共有。結果、9団体(当時。現在は14団体)が集まって2019年に『東京アンブレラ基金』が設立された。
「『東京アンブレラ基金』は都内の支援団体が協働して行う、“今夜、行き場のない人”を救おうというプロジェクトです。寄付でいただいた支援金をプールして、緊急宿泊費(1泊3000円)をそれぞれの団体が支援したら、それを後から振り込む。僕は企画から関わらせていただき、ウェブ関係を含む実務全般を担当しました」