『合意』を取りつけ、性的関係を持つ
'14年7月。過剰な投薬で正常な判断ができなくなり、家族にも不信感を持っていた美紀さん。「治療するには家族と100キロ離れないとダメ」とYに言われるがまま、実家から遠く離れた鹿児島市内でひとり暮らしを始めた。
家族とも離れさせることに成功したYは『合意』を取りつけ、性的関係を持った。
だが、Yには妻子がいた。不倫が判明すると、傷ついた美紀さんの症状はさらに悪化。ショックで自殺未遂をした。幸いなことに一命を取り留めたがYは謝罪するでもなく、侮辱するメールを送ってきたのだ。
後日、既婚者だったことを黙っていたことをとがめるとYは投薬を強制的に中断した。それは殺人にも等しい非常に危険で恐ろしい行為。医師が知らぬはずはない。
精神医療現場で起きている人権侵害問題に詳しい『市民の人権擁護の会 日本支部』の米田倫康さんが説明する。
「離脱症状、禁断症状といわれる身体的、精神的な苦痛を伴う症状が現れ、ときには死に至らしめます」
美紀さんも離脱症状に苦しんだ。遺品の中にあったメモには《最悪の時間を過ごす。禁断症状との戦い》という言葉や心身の不調、薬を渇望するさまが書き残されていた。
これほどの仕打ちを受けながらもYから離れられなかった美紀さん。自分が悪いと思い込まされ、拒絶に脅し。一方でやさしくもされる。性的な関係と大量の薬による精神の錯乱。依存と後悔、孤独。
美紀さんはYに冒頭のメールを送って自ら命を絶った。
被害女性は30人超、2人が命を絶った
警察は事件性はないと判断したが、祐子さんは「おかしい」と訴えた。遺品のメールやメモなどから医師のYが己の立場を悪用し、患者を性的に搾取、自殺に追い込んだことがわかったからだ。だが、判断は変わらなかった。
祐子さんは独自で事件の調査を続けた。するとYの被害者が次々に名乗り出た。
患者、付き添いの家族、クリニックのスタッフ、高齢者施設の看護師……。Yは気に入った女性には片っ端から声をかけ、美紀さん同様、薬漬けにし、巧妙な話術で依存させ、性的な関係を迫った。
美紀さん含め2人が自殺。30人以上の女性が性的被害を受けていたことがわかった。
診察室でキスや胸を触られたり、性行為をさせられた女性。“拒否したら治療は続けない”“通院している家族に迷惑がかかる”と脅され、関係を持たされた女性もいた。