高校生で桃1日130箱完売!
地元の大型青果店でアルバイトを始めたのは、高校1年が終わる春休み。時給のよさが決め手だった。
「高校生アルバイトの時給が540円だった当時、その八百屋は1日10時間働いて日給6000円。これだ! って飛びつきました」
お金目当てで働きだしたものの、店に立つとメキメキと頭角を現した。
「バイトは朝9時からだけど、30分前には行って、搬入された商品を売りやすいように並べておくの。早く行っても時給は出ないけど、自分も働きやすいし、社長や社員さんがほめてくれるのもうれしくて」
社長やベテラン社員を見習いながら、接客も工夫した。
「買ってもらうには、コツがあるんです。知りたい?」
いたずらっぽくそう言うと、臨場感たっぷりに手の内を明かす。
「単に、大声で呼び込みしてもダメなの。それより、お客さんが来たら、わざと小声で“お母さん、お母さん”て声をかけるの。まだ高校生だから『奥さん』じゃなくて『お母さん』(笑)。そんで、“この桃、めっちゃ甘いですよ。いろいろ(箱を)開けたら、これがいちばん甘かった”ってそっと教えるの。そうすると“ひと箱ちょうだい”って、たいてい持ってってくれる」
人なつっこい茶髪の高校生にそう言われたら、買いたくなるのが人情だろう。
商品は面白いほど売れ、1日で130箱の桃を完売させたこともあった。
「早めに売り切れちゃうと、社長に“明日は150箱仕入れてください”って頼んでね。売れ残ったら悔しくて、駅まで桃を担いで売りに行ったこともあります。じきに社長から“原価を教えるから、好きな値段で売ってみろ”って、売値も自分で決めさせてもらえるようになりました」
市場では、『天才桃売り少年』と評判になり、八百屋の社員たちも、当時のホームランバッター、清原和博にちなんで、
「秋葉は青果界の清原! スーパールーキーだ」
と絶賛した。
「もう楽しくて、楽しくて、のめり込んでました。この業界独自の数え方で符牒ってのがあるんだけど、ピン、ニマル、ゲタって、学校のトイレで必死に覚えるほどでした」
そんな充実したアルバイト生活が終わったのは、高校卒業のとき。新たな進路が決まったからだ。
「俺、数学の成績がよかったんで、進路指導の先生には東京電機大学に推薦できるって言われたんです。だけど、親に大学行かせてくれなんて言えなかった。当時、おやじの製本所は伝票の電子化が進んで、にっちもさっちもいかなくなってたから。人より4年早く社会に出て働こうって決めたんです」
就職先は一部上場の電機メーカー・大崎電機に内定した。息子が大手企業に就職できたことに、両親も大喜びだったという。
ところが、1年後──。
「らっしゃい、らっしゃい!」
秋葉さんの姿は、再び八百屋の店先にあった。