遺書も残されておらず、宮里さんが死を選んだ理由はわからないそうです。筆者は美紀さんにこう投げかけました。「旦那さんはいろいろ資産運用していたようですが、投資したお金はどのくらい残っていたのでしょうか?」と。そうすると美紀さんは「300万円くらい」と答えました。相談当時、宮里さんは1000万円を投資しており、毎月6万円の配当金を得ていると豪語していました。だから妻子に生活費を送るのも余裕なんだと。利率にすると7.2%なのでかなりの高利回りです。もしリスクが高い先に投資していたとしたら……コロナの影響で運用が悪化し、投資した財産が3分の1に減少したと考えられます。

 もちろん、そのことが自殺の直接の原因になったのかどうかは今となっては誰にもわかりませんが、もしそうだとしたら、コロナがなければ宮里さんが亡くなることもなかったのではないか──そんなふうに思うと筆者はつい唇を噛みたくなります。

夫は妻だけでなく、息子のことも裏切った

 美紀さんは「先生にこんなことを言ってもしょうがないんですが」と前置きした上でこう続けます。

「息子が産まれたとき、主人と二人で立派に育てていこうと誓いました。主人は私だけでなく、息子のことも裏切ったんです。こんなことをしたら必ず、息子が悲しむってわかっているはずなのに……許せません!」

 美紀さんの声は涙声で、悲しみと憤りをどこにぶつけたらいいのかわからないという様子でした。ただでさえ息子さんは思春期で難しい年ごろです。宮里さんが亡くなってから半年、このことを息子さんにどう伝えていいかわからずに過ごしてきたそうです。

 やはり離婚と死別は別ものです。離婚の場合、離れて暮らしているとはいえ父親は生きています。将来的に会いに行ったり、連絡先がわかれば電話やメール、LINEなどで連絡を取り合ったりする可能性が残されています。一方、死別はどうでしょうか? すでに父親はこの世にいないので、息子さんは二度と父親の声を聞いたり、返事が返ってくることはありません。実際のところ、父親が不在の影響はあまりにも大きいのです。

 息子さんはかろうじて滑り止めの高校に合格し、入学したものの、第一志望ではなかったため、遅刻や欠席を繰り返していたそうです。美紀さんは最近になり、意を決して宮里さんの死を伝えたのですが、息子さんはますます精神的に不安定になり、学校へ足を向けることができなくなり、自室にこもる日が増えているのが現状です。

「息子に何の罪があるのでしょうか? 主人は私だけでなく息子の人生も狂わせたんです!」

 美紀さんは我慢できずに嗚咽をもらしていました。

 妻子が出て行き一人になった宮里さんの状況がどのようなものだったのかは推し量ることしかできませんが、宮里さんは夫であり、父親でした。百歩譲って妻に対しては「嫌になったからやめる」で済まされるかもしれませんが、子どもは違います。最大の被害者は息子さんです。

 現在、コロナ禍で苦境に立たされている方は多いでしょう。でも、最悪の決断をしてしまう前に、家族の顔をもう一度思い出してください。妻子のいる方々にはそのことを頭の片隅に置いておいてほしいのです。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/