想像以上に高い
声優たちの演技力
次に、なぜ俳優が声優をやると叩かれがちなのに、声優が俳優やると好意的に受け入れられるのか。
その理由はシンプルで、声優たちの演技力が人々の想像以上に高いから。声優と俳優の仕事は、台本を受け取るタイミングから、セリフの覚え方、役作りのアプローチ、発声方法、表情や仕草まで違うことだらけだが、「自分ではない誰かを演じる」という点では同じ。そもそも声優の育成には、「表情だけでなく全身を使って演じることからはじめる」というアプローチがあり、「発声と同等以上に演技力を重視しているスクールもある」という。
また、声優として活躍する人の中には、宮野真守のように子役経験や舞台活動にルーツを持つ人も多く、むしろ「声優というくくり自体がナンセンス」という声すらある。つまり、視聴者が知らないだけで、俳優活動の経験が豊富な人は少なくないのだ。ベテランに目を向けてみると、戸田恵子、山寺宏一、大塚明夫、高木渉、難波圭一などドラマ出演の多い顔ぶれが並ぶ。
声優を起用する制作サイドにしてみれば、声がいいのはもちろん、俳優としての演技もこなし、ネットユーザーに強く、さらにイベントやSNSで顔出し活動をしている人も多いなど不安は少ない。ローリスク、ハイリターンが期待できる人材だけに、今後もこの傾向は続いていくだろう。
ただ、声優のドラマ出演が叩かれるケースが少ないのは、「まだ叩かれるほど、一般的な知名度やステイタスが高くないから」という理由もあるだろう。声優たちの中には、「声優全体の知名度やステイタスを上げるために、ドラマやバラエティーに出演している」という志の高い人もいて、徐々に成果が見えはじめている。近い将来、「声優がドラマに挑戦」という見方そのものがなくなるかもしれない。
木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。