聖子や明菜にも通づる「法則」

 この「法則」は80年代の「センター」アイドルを争った松田聖子中森明菜にも当てはまりそうだ。

 聖子は郷ひろみと破局後、神田正輝と結婚したが、ジェフ・ニコルスやアラン・リードといった外国人の俳優やダンサーと浮気してそれを暴露されたりしたあげく、離婚。その後は二度続けて歯科医と結婚し、ふたりめとの結婚生活が継続している。

 明菜は近藤真彦との結婚を夢見たが、自殺未遂をするなどして、破局。その後、マネージャーなどと交際したものの現在、独身だ。こちらは実家ともうまくいかず、自ら戸籍を抜いて絶縁したとも報じられた。その背景には、彼女が稼いだ収入をめぐるいざこざがあるようだ。

「時代のセンター」となったアイドルにこうした家族トラブルが起きやすいのは、富と名声がさまざまな歪みをもたらすからだろう。また、同業者との恋も、同格なら双方の事務所なども含めて衝突しがちになる。

 かと思えば、格差がある場合、相手はちょっとクセが強かったりする。「センターアイドル」にアタックできる男はある意味、特殊な人が多いからだ。

 そんななか、例外的存在が山口百恵だろう。何がよかったかというと、愛人の子として生まれ育った彼女は、デビュー前から、父親を通して「ダメ男」というものを学習できていた。さらに、この父親は彼女が売れてからも、親権を返せと迫ったり、無断で事務所に借金したり、あげくは結婚も妨害しようとしたが、そういう悪いしがらみをきっぱりと断ち切ることで、本当の安息にたどりつけたわけだ。

 その安息をもたらした夫・三浦友和は同業者だったが、その関係性はただの共演相手というレベルを超えていた。著書『蒼い時』のなかで、恋が芽生えていった流れについて、百恵はこう書いている。

《親や妹と顔を合わせるよりも多くの時間、彼と共に仕事をしていた。(略)たくさんの時間を共有するうちに、初め『兄さんのような人』という気持ちがわずかながら違う方向へ走っていくのは感じていた》

 ゴールデンコンビと呼ばれ、数々のドラマ・映画で共演した6年間、ふたりは家族のように接しながらおたがいを生涯の伴侶にできると確信したのだ。

 さて、話を前田に戻そう。彼女は昨年、太田プロから独立してフリーになった。結婚した夏に撮影された主演映画『葬式の名人』(2019年公開)ではシングルマザーを好演。今後はプライベートの実体験も肥やしにして、演技の幅をさらに広げていきたいところだ。

 ただ、ハリウッド進出を視野に入れている、とも報じられている。かつての聖子もそうだったが、日本でのトップを経験すると、海外での成功を目指したくなるものらしい。これも「時代のセンター」が陥りやすい落とし穴だろう。

 誰よりもその時代に愛された女性アイドルたち。そのぶん、時代が嫉妬して、幸せを邪魔するのかもしれない。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。