イメージが先走り!? 樹海“都市伝説”
自殺者がたくさん出るため、青木ヶ原樹海は心霊スポットとして取り上げられることも多い。実際、霊能者がらみの取材に同行したこともある。霊能者は神妙な顔つきで、
「おびただしい数の霊魂が集まっていますね!!」
などとオーバーに驚いていた。だが青木ヶ原樹海の中で亡くなる人の数は多くて年間数十人くらいだ。最近では昔よりも減って30人以下だと言われている。単純計算で10日に1人以下だ。普通の森よりは多いだろうが、「おびただしい数の霊」ってほどではないんじゃないの? と興ざめした。
だが青木ヶ原樹海は、霊現象以外にもさまざまな怪奇現象が起きると噂されている。まさに都市伝説の宝庫だ。代表的なところを検証してみよう。
まず最も有名なのが、
「樹海の中では方位磁石がきかなくなる」
という説だろう。多くのフィクション作品の中でも登場する伝説だ。樹海の中で迷った主人公の手の中で、コンパスの針がクルクルと回るシーンを見たことがある人は多いはずだ。だがもちろん実際にはそんなことは起きない。
筆者は20代のときに、コンパスだけで2度樹海を縦断したことがある。ほとんど迷わずに樹海を縦断することができた。確かに樹海の岩石の中には磁気を発生する鉱物があるらしいが、大変弱い磁力なので、コンパスを胸の高さで使用するなら、ほとんど影響はない。
類似の伝説で、
「青木ヶ原樹海は迷いの森。1度入ったら生きて出ることができない」
というものもある。しかしこれもデマだ。樹海の中で
「わざと迷ってみよう」
と思い行動してみたことがある。コンパスもGPSも持たずに樹海の中に入ってひたすら歩いてみた。すると、30分も歩くと自然と外に出てしまった。1度ではなく3回入っても同じ結果になった。
樹海は広そうに見えるが実際には4キロ四方くらいの大きさしかない。そして樹海の内部には実はたくさんの遊歩道、旧遊歩道、登山道が走っている。探検をした人が残していったロープが残っていることも多い。樹海で死体がよく発見されるのは「樹海に自殺するために来る人」が多いからだ。
実際には、樹海の中で迷ってしまって、そのまま出られなくなって死んだ人はほとんどいないと思う。
「樹海の中では携帯電話は使えない」のは、都市伝説というより、当たり前のことだと思っている人も多い。だが、樹海の中は意外と電波が通じている。もちろんどこでもバリバリアンテナが立つわけではない。しかし場所によっては動画の配信ができるくらいの電波がある。
実はこれは最近の話ではない。筆者が初めて樹海に潜った20年以上前、ドキドキしながら森の中を歩いていたら、いきなり出版社から仕事の電話がかかってきた。仕事の話をしようとするので、
「いま樹海の中にいるんです」
と電話を切った。するとその直後に今度は母親から法事を知らせる電話が。そんなことで、すっかり興ざめしてしまった。青木ヶ原樹海の神秘的な光景に酔いたい人は携帯電話の電源は切っておいたほうがいいだろう。