実在する『樹海村』その実態は……
「樹海の中には自殺志願者がつくった森があり、そこで生活している人がいる」
という都市伝説もある。これは映画『樹海村』の基礎になった伝説でもある。映画の中では樹海の中に捨てられた人、自殺した人などが集まってつくられたおぞましい村が出てくる。しかし実際に樹海を歩いていて、このような集落を発見したことはない。テントが立てられているのを見つけるのが関の山だ。
しかし驚くなかれ、青木ヶ原樹海の中に本当に村はあるのだ。航空写真を見ると精進湖の南のあたりの139号線の道沿いにキチッと長方形の形に整備された場所を見つけることができる。河口湖町精進5丁目、通称『民宿村』と呼ばれる場所だ。きちんとアスファルト舗装されて、70軒以上の民家が立っている。そして、名前のとおり10軒ほどの民宿が営業をしている。
筆者は泊まりがけで青木ヶ原樹海を探索するときは、この民宿村に宿泊させてもらっている。実は樹海周辺は観光地だ。富士急ハイランドや富士サファリパークへ泊まりがけで遊びに行く人や、富士五湖や富士山登山をする人が利用する場合が多いという。おどろおどろしい気分を味わうことはできないかもしれないが、ぜひ1度、遊びに行ってほしい穴場なスポットだ。
そして最後の伝説は、
「樹海の中には野良犬やクマなどの獣がいて人間が襲われている」
というもの。
まずよく言われるのが、捨て犬が野犬になり群れをつくっているというものだ。だが実際に、樹海の中で犬を見たことは1度もない。もし群れで生活しているなら、かなりの量の肉を食べなければいけないが、たまに出る自殺者の肉ではとうてい足りないだろう。
ネズミやリスなどの動物を捕まえて食べたらいいのじゃないか? と思うかもしれないが、これも難しい。樹海はあまり栄養に富んだ森ではないため、小動物の数も多くはないのだ。そして、クマだが、
「安心して!! 樹海にクマなんていないよ!!」
と否定したいところだが、そこまでハッキリとは言い切れない。樹海の中で見つける遺体の多くは、動物に齧(かじ)られている。ネズミやイタチなどが齧ったと思われる小さな齧りあとはよく見かける。
だが、あからさまに大型動物が食べたと思われる痕跡もちょくちょく見かける。乱暴にシャツをめくられ腹部がごっそり食べられていたり、ジーパンを切り裂き太ももの肉を齧り太い大腿骨をバッキリと折っているものもある。
前述のとおり樹海の中は栄養に乏しいのであまりクマがいるメリットはないが、ツキノワグマの生息範囲には入っている。別に柵があるわけではないから、来ようと思ったら来ることができる。
「なんだクマが出る以外の噂は全部、根拠のない噂じゃないか?」とシラケてしまった人もいるかもしれない。
しかし神秘的なベールをすべて剥いでしまって現実がむき出しになっても、青木ヶ原樹海が、自ら命を絶つ人たちが集まる“自殺の森”であることは間違いがない。
なぜ青木ヶ原樹海で多くの人たちが命を絶つのか? それにはいろいろな仮説はあるものの明確な答えはない──。
寄稿・写真/村田らむ
ルポライター、イラストレーター、漫画家。樹海や禁断の土地、触れてはいけない社会の暗部などを自ら身体を張って取材。近著『ホームレス消滅』(幻冬社)発売中