「いま欲しいのはお金じゃない」
南相馬市と同じく、ほぼ壊滅してしまった福島の新地町。道路がほとんど寸断されている中、1軒だけ営業しているスーパーに人が殺到していた。
果物やスナック菓子を大量に買い込む人が列を作っている中、突然、店内が湧き上がった。
「おにぎりができましたー! もしよかったら食べてください!」
普段の生活であれば、いつでも食べられるようなおにぎり1つに救われる。
「いま欲しいのはお金じゃない。1つのおにぎりとか、1杯の水なんです」(30代男性)
それでも、このまま救援物資が届かなければ、いつかは底をついてしまう。だが、道も寸断されたこのエリアには、いつになったら届くのか。
6号線沿いの公衆電話は一切つながらない。コインを投入しても、つながらないことを確認する記者に、
「電話つながらないですよね……。母と連絡を取りたいんですけど、携帯もつながらないし、電気もないし。どこに行けばいいんですかね。町じゅうの公衆電話を探し回っていたんですが、公衆電話っていざとなるとどこにあるかわからないし……」(20代女性)
憔悴しきった顔。食料もなく眠れないままで体力がすり減り、崩れ落ちた道路を駆けずり回る女性の背中からは悲壮感と焦燥感が漂っていた。
どこを通っても、瓦礫の山。見ていると、これが当たり前のように感じてしまうほど、感覚がマヒしてくる。
そうして、ようやく杜の都・仙台に到着した。歴史ある風光明媚な土地で、普段なら日曜日。笑顔があふれているはずの街は、悲しみに暮れていた。
「このままだと略奪が始まっちゃう」
大都市・仙台市街もライフラインがストップし、仙台駅近くにある避難所となった小学校の女性トイレには、トイレットペーパーを持った女性が行列。ブルーシートのテントには、ガムテープで貼られた段ボールに《毛布ありません。食事未定 バスJR道路状況不明 仙台駅まで行ってみてください》と書いてあった。東北一の大都市でも、情報は伝わってきていないようだ。わずかに営業しているコンビニも行列ができており、食料は棚にほとんどない。
「買い物は5分以内でお願いしまーす!」
時間制限がされるなか、おでんを買い占めんばかりに注文する女性客の姿もあった。同じように長蛇の列が並んでいたスーパーで、トイレットペーパーやティッシュを買い込んでいた男性は、
「3時間以上も待ちました。今はいいけど、このままだと略奪が始まっちゃいますよ」
海外メディアから「日本人は秩序がある」と称賛されていたが、それも限界が近づいているのかもしれない。このまま食料不足が続くと、最悪のシナリオが始まってしまう。それが、テレビやネットでは知ることができない被災地の真の姿なのだ……。