「昼の顔」の共通点
坂上忍と恵俊彰。それぞれ『バイキングMORE』(フジテレビ系)と『ひるおび!』(TBS系)という番組を持ち“昼の顔”を争うタレント司会者である。すでに実績も十分だ。
まず、坂上は『笑っていいとも!』終了後のフジの昼を立て直した。2014年に、曜日ごとに違うMCで始まったバラエティー『バイキング』を1年後に統一。総合MCとして本音トークのワイドショー路線を打ち出し、昨年秋からは今のタイトルに変わって時間も60分拡大された。
その際、終了したのが『直撃LIVEグッディ!』。安藤優子とともに司会をこなしていたのが高橋克実だ。共演経験のある役者の結婚や不祥事などでは味のあるコメントを聞かせてくれたが、自分の舞台が始まると長い休みをとって八嶋智人に代わってもらうなど、片手間っぽさも否めなかった。あくまで本気度が売りの坂上を、視聴者は選んだともいえる。
その本気度は、天才子役と呼ばれながら役者として大成できなかった反動でもあるのだろう。若いころ、
「俺の理想はデビッド・ボウイ、かな。彼は芝居と歌と両方やって、どちらもビッグ。俺もそうなりたい」
と言っていた坂上は歌にも挑戦したが、挫折。しかし、'03年に離婚した際、それを『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)で公表していじってもらったあたりから、自分のキャラや私生活を切り売りすることを覚えた。さらに、人のスキャンダルを斬るワザも身につけ、今にいたるわけだ。
一方、恵は20年以上にわたって迷走していたTBSの昼に安定をもたらした。'09年スタートの『ひるおび!』はここ10年ほど、この時間帯で最も高い視聴率を誇っている。
こちらも本気度はかなりのもので、それはハングリー精神から来ているようだ。同じ鹿児島出身で中学の先輩でもある長渕剛を崇拝。その熱狂ぶりを浜田雅功にいじられたりもした。また、早稲田大学を目指したが3浪してあきらめたという話もあり、芸人から司会者への転身も上昇志向のひとつと考えられる。
ただ、そのせいか、熱くなりすぎることもある。昨年4月には、コメンテーターのふかわりょうがメディアでコロナ禍ばかりが取り上げられることのマイナス面に言及。かえって「人々の余裕を奪っている」のではと口にしたことが気に入らなかったようで、
「毎日毎日、ふかわくんにしてみりゃつらいかもしんないけどさ、24時間。でもわれわれとしてはわれわれなりにやれることをやりたいのよ!」
と、キレぎみに返し、ネットをざわつかせた。
なお、そんなふかわは4月から『バラいろダンディ』(TOKYO MX)のMCを担当することに。9年間MCをやってきた同局の『5時に夢中!』は卒業する。『5時夢』はマツコ・デラックスや岩井志麻子といったクセのあるコメンテーターがそろう、ゆるくて多様性を感じさせる異色のワイドショーだ。
とはいえ、主流はやはり恵や坂上のスタイル。坂上は歌手として同世代で友人でもあった尾崎豊に負けたことが悔しく「あれは歌というより説教」などと評したことがあるが、司会者としてやっていることもけっこう説教に近い。
思えば、加藤浩次も尾崎のファンだし、蓮舫はその訃報に涙した。ワイドショー空間は尾崎、あるいは恵が崇拝する長渕の歌みたいな“説教”的なスタンスとの相性がいい。恵と坂上が昼のツートップなのも、当然なのだ。
宝泉薫(ほうせん・かおる) アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)