「好き」だからやる
ちょうどそのころ、彼女は新選組にもハマっていたらしい。いわゆる“聖地巡礼”をしていたところ、たまたまロケをしていた占い芸人の島田秀平に遭遇した。手相を見た島田は「人気者になる」と田辺を絶賛。その言葉をきっかけに芸人になる決心をし、彼女は29歳で吉本興業の芸人養成所であるNSC東京校の門を叩くことになったという。ただし、昔からお笑いに関心があったわけではないようだ。
「私あんまりお笑いを見てこなくって、あんまりわからなくて。でも唯一ハマったのが三瓶さんなんですよ。だからいま私のこの喋り方っていうのは、もしかしたら三瓶さんと、あと『ちびまる子ちゃん』から私はできてます」(『アメトーーク!』テレビ朝日系、2020年9月10日)
以上のような経歴からは、田辺の半生はある意味で行きあたりばったりにも見える。しかし、そこで常に指針に置かれてきたのは自身の「好き」という気持ちだったのだろう。「好き」に導かれるままに、いつの間にか人生の転機を迎えてきたともいえる。
だからだろう。芸人になった後も、『名探偵コナン』の怪盗キッドが好きだという彼女は、今後やりたい仕事を尋ねられて「名探偵コナンの声優」と答える。また、ジャニーズ好きだという彼女。中でも亀梨和也の大ファンで、彼が英語を喋る姿を見て自身も勉強し始めた。
「日本人に恋しても英語って勉強できるんだなって思いました」(『しゃべくり007』日本テレビ系、2020年5月4日)
また、彼女は美味しいもの好きでも知られる。
「全世界のおいしいものを食べたいってホントに思ってるんです」と豪語する彼女は、アンジャッシュ・渡部の“失脚”により空いた「グルメ王」の座に名乗りを上げる(『マツコ&有吉 かりそめ天国』テレビ朝日系、2020年11月27日)。
特にスイーツには造詣が深く、バラエティー番組でも彼女がお気に入りのスイーツを紹介する企画がしばしば組まれている。
「だいたい5年間で700種類は食べてきてます。給料の8割ぐらいはスイーツに使ってます」(『有吉ジャポンII ジロジロ有吉』TBS系、2021年2月19日)
ぼる塾は水着NGや大食いNGといったNG項目が多いことでも知られる。従来の「女芸人」がやってきた仕事でも、やりたくないことはやらない。無理はしない。
ただ、そんなNG項目が破られることもあり、それもまた、田辺の「好き」が基準になっていたりする。ぼる塾はある番組でピザの大食い企画に参加したことがある。が、それは田辺がピザ好きだったからだという。彼女は無理をしない。が、無理をしないことにも無理をしない。
「好き」を基軸に生きてきた彼女は、ひょんなことから「好き」でもなかった芸人になった。しかし、そんな芸人としての活動を、彼女は「好き」で満たそうとする。
「楽しそうな私たちを見てみなさんにも楽しくなってもらいたい」
これはメンバーそれぞれが折に触れて口にするぼる塾のコンセプトだが、そんなぼる塾の象徴的な存在が“好き”を手放さずに生きる「田辺さん」であり、彼女を中心とした楽しそうな関係性に、私たちはいつの間にか巻き込まれているのだ。
<文・飲用てれび(@inyou_te)>