ルポ・吹上トンネル
「霊感記者の恐怖体験」

 春の嵐が過ぎた翌日、記者はカメラマンとともに「吹上トンネル」に向かった。

 最初に訪れたのは「心霊写真が撮れる」など、多く怪奇な噂がある「旧吹上トンネル」。手入れのされていない道路はボロボロ、緑が広がり、全長245メートルのトンネルがぽっかりと口を開けてわれわれを待っていた。

 天井に照明はついているものの、中は昼間でも薄暗く、重く湿った空気が漂っていた。天井や壁はひび割れ、ところどころ、滝のように水が噴き出していた。

「おばけより崩落が怖い……」

 それが第一印象だった。

旧吹上トンネル内。人のように見えるシミも多い
旧吹上トンネル内。人のように見えるシミも多い
【写真】トンネル手前、電柱に書かれていた“メッセージ”

 トンネルを進んでいくと雨漏りや経年によってできた壁のシミが人の顔や人の形に見えた。夜なら別のものと見間違えてもおかしくはないだろう。足音もやけに大きく響く。

「高齢女性がトラックにひかれた跡が残る」という都市伝説も検証すべく、その痕跡を探したがそれも見つからなかった。気圧のせいで空気は重いが、記者の心霊レーダーには何も反応しない。何も起きないままで、出口に到着した。

 次に前述のいわくがあり、“最恐”といわれる『旧旧吹上トンネル』に向かった。

 トンネルに向かう道はすでに廃道となっており、すぐには見つからない。聞き込みやネットの情報を頼りに、森の中をさまよい、ようやくそれらしき道を発見した。

 道幅1メートルにも満たないけもの道。片側は崖。足元には土砂崩れ防止のネットを固定するワイヤーや杭などが打たれており、枯れ木や枝も散らばっていた。日中でも危険なのに、夜なんてうっかり転んで谷底に真っ逆さま、なんてことになりかねないほどの悪路だった。

 5分ほど登ると、木々がうっそうと茂る森の中に「旧旧吹上トンネル」があった。

 レンガ造りのトンネルは、歴史的にも貴重なもの。だが、年月とともに劣化し、森へ戻ろうとしていた。

鉄板で封鎖された旧旧吹上トンネルの入り口。深夜でも多くの若者が訪れる
鉄板で封鎖された旧旧吹上トンネルの入り口。深夜でも多くの若者が訪れる

 トンネルの入り口は前述のAさんが厚い鉄板で覆ったため、中に入ることはできない。鉄板をつなぐボルトを無理やりはずしてこじ開けよう、という人は後を絶たないという。

 とりあえず、鉄板の隙間からそっと手を入れてみると、内部の冷たい空気を感じた。

「もし、ここから手が出てきてつかまれたら嫌だなあ」なんてことを想像したら、一瞬ドキッとして、手がすくんだ。幸い手は出てこなかった。

 カエルや虫、動物の鳴き声が時折、子どもや女性の叫び声に聞こえた。

 再び、「旧吹上トンネル」を通り帰路につく。行きは「何か起こるのか」なんてことを考えてビクビクしていたが、帰りの足取りは軽い。

 だが、出口の手前でカメラマンが言った。

「(入り口の)ポールって行き、あったっけ?」

 入り口には白いポールが1本立っていた。私の記憶にはなく、カメラマンいわく「行きにはなかった」とのこと。

 現場に緊張が走った。

 何かの怪奇現象が起きたのか─。恐る恐る、行きに撮影した写真を確認してみると、

「ありました!」

 一気に力が抜けた。

 だが、言われてみれば行きには気づかなかったものがたくさん目に入った。ドリンクやお菓子のゴミ、タバコの吸い殻。卑猥な言葉の落書き……。かなり荒れ果てていた。

 この世のものではないものがトンネル内にいるなら、好き勝手に振る舞う人々にうんざりしているだろう。だから姿を現さないのだ。

 われわれは何かに遭遇することなく帰路についた。

 取材を終え、帰宅すると隣からドンと壁を叩く音が聞こえた。隣はだいぶ前に引っ越し、今は誰も住んでいない……。吹上トンネルから客人を招いてきたのか。「隣人」の機嫌が悪いのか。今朝も壁を叩く音は聞こえていた。