前出の喜熨斗氏は、彼の孫に対する感情をこう語る。
「吉右衛門さんは娘の結婚の場でも“男の子が2人できたら継がせたい”と冗談めかして語っていました。なかば諦めかけていた名跡の伝承ですが、やはり自分と同じように血縁者に継がせたいという思いは胸に秘め続けていたのでしょう。丑之助くんを可愛がるのも無理はありません」
孫に「中村吉右衛門」を継がせたい
吉右衛門の中に芽生えた“丑之助を継承者に”という一縷の望み。しかし、彼が播磨屋を継ぐ可能性はゼロに等しい。
「丑之助くんは尾上家の長男。ゆくゆくは菊之助、菊五郎の名前を襲名して音羽屋を継ぐことは避けられませんから、彼を養子に出したりして播磨屋を継がせることはないでしょう。ただし、尾上家のみならず歌舞伎界全体が播磨屋の存続を望んでいますから協力は惜しまないと思います」(梨園関係者)
ほかの後継者もいなくはないようだ。
「よく候補に挙がるのが寺島しのぶさんの息子である寺嶋眞秀くんですね。吉右衛門さんと血はつながっていませんが、菊五郎の孫なだけあってセンスは抜群。歌舞伎の指導も受けており将来が楽しみな役者の1人です。しかし彼は兄弟がいませんし、吉右衛門さんと血縁者ではありませんからね。養子に出されたりすることはないでしょう」(同・梨園関係者)
血縁がある兄の白鸚からの手助けは期待できないのか。
「吉右衛門さんは自分と違い親元に残った兄に対して複雑な感情を持っていますからね。芸風も白鸚さんが継いだ高麗屋は柔軟で革新的。そのためテレビや映画に舞台など、歌舞伎のみならず現代劇に活躍の場を広げました。一方の吉右衛門さんが継いだ播磨屋は重厚な古典芸能が主戦場で、出演するドラマも時代劇ばかり。方向性に違いがあります」(同・梨園関係者)
元・松竹の宣伝マンで芸能レポーターの石川敏男氏は、後継者問題をこのように見据える。
「いちばん丸く収まるのは、菊之助さんと瓔子さんの間にもう1人男の子が生まれて芸養子に迎えることかもしれません。それが叶わなくても同じ屋号の中村歌六さんや内弟子さんが継承しますので、播磨屋がなくなることはないと思います。しかし名跡というのは、本質的に受け継いだ芸を守ったり発展させていくことが大事ですからね。今は吉右衛門さんがいちばんおつらいと思います」
後継者については、ゆっくりと考えていってほしい。