民間救急車の車内の様子。運転席と後部座席はビニールで仕切られていた 撮影/若林理央
民間救急車の車内の様子。運転席と後部座席はビニールで仕切られていた 撮影/若林理央
【写真】筆者が実際に乗車した民間救急車の車内の様子。座席はシートで覆われ……

民間救急車に揺られ、病院へ

 3年前、海外旅行中に腎盂腎炎(じんうじんえん)になり、緊急入院した。眠ることすらできないほど苦しかった。

「あのときほどは身体がつらくないし、日本の病院だから言語やシステムの違いで苦労することもない。なんの心配もない」と自分に言い聞かせる。

 翌朝、体温は36度台に下がった。だが、発症2日目の症状がひどかったので、体調確認の電話をかけてくれた保健師は言葉を選びつつ、「やはり入院で」と私に告げた。

 ホテル療養の可能性が消えたのは残念だったが、病院なら土日も当直の医師がいるし、看護師もたくさんいる。ありがたいと思わなければならない。

 13時、知らない番号から電話がかかってきた。出ると民間救急の職員だった。

「13時半に到着します」

 保健所と連絡が行き違ったらしい。慌てて入院用の荷物を確認していると、すぐに保健所からも電話があり、入院する病院名を教えてもらった。そこまで民間救急車で連れていってくれるそうだ。

 私が新型コロナになったのは比較的、感染者の少ない時期だった。それでも保健所や民間救急、病院は忙しい。

 民間救急の職員は、恐らく同じマンションの住民を不安にさせないため、マンションの入り口から見えにくい場所に車を停めてくれた。民間救急車は、消防署の救急車よりも小さい。救急車というより小型バスのようで、色は白かった。

 医療用ガウンで首から足まで身を包み、マスクをした2人の男性が降りてきた。あいさつしてすぐ、手袋をつけた手で私の持ってきたスーツケース2つと、大きなバッグひとつを手際よく運ぶ。

「後ろの席にどうぞ」

 そう言って私を誘導した後、2人はビニールのパーティションで仕切られた運転席と助手席に座り、髪にキャップをした。乗るまでキャップをしなかったのは、私がコロナ患者だと周囲に思われないよう、最大限の配慮をしてくれていたのだ。

 車の後部にあるスペースはとても広い。すぐ横には、青いシートをかぶった車イスがある。保健所によると、ほかの新型コロナ患者と同乗することもあるらしいが、そのときは私ひとりだった。

 民間救急車にはサイレンも赤色灯もない。通常の車と異なるのは、私と運転席・助手席の間にスペースがあり、ビニールのパーティションで仕切られていることと、助手席の職員がひっきりなしに電話をしていることだ。

「立てない高齢の方ですね、15時にお迎えに行きます」

 そんな話が聞こえた。

 病院に着いたのは14時過ぎだった。

 民間救急の職員は私を支えて車から降ろし、私と、新型コロナ専用病棟の前で待っていた看護師にあいさつをして去っていった。

 こうして、私の入院生活が始まった。

(文/若林理央)

《※新型コロナ体験記・後編では入院生活の様子を綴っています→【新型コロナ体験記】入院患者が見て、聞いて、感じた病院と医療従事者の“リアル”


【PROFILE】
若林理央(わかばやし・りお) ◎読書好きのフリーライター。大阪府出身、東京都在住。書評やコラム、取材記事を執筆している。掲載媒体は『ダ・ヴィンチニュース』『好書好日』『70seeds』など。ツイッター→@momojaponaise