病棟で毎日働く医療従事者にとって、新型コロナはとても身近なものだ。しかし、彼らは患者の前では感染の恐怖を露ほども見せず、自らの業務をこなす。
もちろん、医療従事者との距離は病院によって異なる。私の夫は新型コロナ患者が完全に隔離され、看護師とナースコールでしか話せない病院にいた。
それでも、真摯(しんし)に感染症と向き合う姿は、新型コロナ患者を受け入れている病院の医療従事者すべてに共通しているはずだ。彼らの努力が、私たちを救う。
新型コロナ発症から退院まで。10日ほどの期間で、その事実が身に染みた。
医療に携わる人たちの努力
新型コロナで入院してから、まもなく1か月がたつ。咳は徐々に減り、4月に入ったころ、完全になくなった。
夫はまだ味覚障害があるが、それもだんだんと感染前の状態に戻っている。
最近、用事があって久しぶりに保健所と病院に電話をすると「元気になってよかった。でも、まだ無理をしないでくださいね」という言葉をもらった。
私が新型コロナだと判明した日、東京都の感染者数は300人ちょうどだった。
しかし今、東京都の一日の感染者数はその倍の人数に近づき、『まん延防止等重点措置』の適用が決定した。
大阪府の新型コロナ感染者は過去最多を更新し続けている。私の父は医師であり、今、大阪の病院で発熱外来も担当している。泌尿器科医なので本来は専門外なのだが、そうせざるをえない状況だ。
同じく医師だが勤務先の異なる母は、まだ新型コロナ患者を診察していない。だが「医療がひっ迫すれば私も忙しくなるかも」と言っていた。
両親は60代だ。感染したら重症化する可能性が高い。それでも2人とも、いざとなれば感染症患者を救うために力を尽くすだろう。
当然のことだが、患者と向き合う医療従事者も私たちと同じ人間だ。彼らの疲労が限界に達したとき、私たちは新型コロナだけではなく、他の病気を前にしてもなす術がなくなる。
看護師がかけてくれたシーツの温かさを、絶対に忘れない。
外出も仕事も通常どおりできるようになった今、その思いは日ごとに強まっている。
(文/若林理央)
【PROFILE】
若林理央(わかばやし・りお) ◎読書好きのフリーライター。大阪府出身、東京都在住。書評やコラム、取材記事を執筆している。掲載媒体は『ダ・ヴィンチニュース』『好書好日』『70seeds』など。ツイッター→@momojaponaise