読者アンケートの第2位には、『おしん』がランクイン。最高視聴率62・9%は、国内のテレビドラマの最高記録。放送から30年以上たったいまも、記録は破られていない。
「小学生のときの担任の先生が、給食の時間に教室のテレビで昼の放送を毎日見せてくれた」(東京都・公務員)
「貧しいおしんがよく食べていた『大根めし』を、生徒に体験させるために給食で出したという新聞記事が印象に残っている」(東京都・主婦)
という読者の声からもわかるように、1983年の放送当時、『おしん』は社会現象にまでなった。のちに、シンガポールやアメリカ、イランなど世界約60か国で放送され、海外でもおしんブームを巻き起こした。
「奉公に出され、いびられる幼少期のおしんの姿があまりにも有名で、おしんといえば小林綾子さんというイメージですね。でも実は、10代~中年期を演じた田中裕子さん、老年期の乙羽信子さんのおしんに橋田さんの思いやメッセージが色濃く表現されていると思います」
“殺人”は絶対に描かない
大正14年生まれの橋田さんは、10代で戦争を体験している。取材ではたびたび「反戦」への思いを語ってきた。
「橋田さんは『ドラマでは殺人は絶対に描かない』とおっしゃっていました。それは、戦争で多くの命が失われ、残された人たちが苦しむ様子を目の当たりにしているからなんです」
ドラマの中では、おしんが戦争に翻弄される姿が丁寧に描かれている。息子と夫を亡くし、仕事も家もない絶望のどん底で、それでもおしんは再び強く生きていくことを決意する。
「何度転んでも立ち上がる姿に、視聴者は勇気をもらえるんです。おしんって、生涯で20回以上転職するんですよ(笑)。失っても執着せずに、またほかのことをやればいいという切り替えの早さ、強さが素晴らしいですよね」
成田さんがいちばん好きなシーンがある。幼子を連れて行き場をなくしたおしんを、知り合いの親類である神山ひさが助ける場面だ。
「赤木春恵さん演じるひさは、伊勢の網元の女将。何度も助けてくれることに恐縮するおしんに、ひさは“人間はな、人の厄介にならないかんときがある”と諭すのです。世の中は持ちつ持たれつでお互いさまだということ。橋田さんがインタビューで語ってくださった、『人は血のつながりがなくても立派な絆が築ける』という思いが、このシーンに表れていると思います」