見て見ぬふりも加害行為と同じ
加害者の更生には、認知の歪みを修正する方法を学習し、適切なストレス対処行動を身につけさせる以外にないため、専門家による『性犯罪再発防止プログラム』が欠かせない。同時に痴漢撲滅には、加害者治療や当事者に声を上げる勇気や自衛を求めるばかりでなく、「第三者へのアプローチも重要」と訴える。
「痴漢をはじめとする性暴力を周囲の人が、見て見ぬふりをするのは、加害行為に加担するのと同じ。巻き込まれたくない、急いでいる、などためらう気持ちもわかりますが、第三者が被害者に声をかけたり、通報に協力するなど、社会全体で加害行為を見過ごさない、そんな意識を私たちが持つことが大切です」
もし被害に遭った際、勇気を出して「やめてください」と言っても周囲の乗客に無視されたら、絶望してしまう。そしてそんな空気が加害をしやすい社会をつくってしまう。第三者の「見過ごさない」という意識の積み重なりが、痴漢撲滅には必要なのだ。
親しい人から被害を相談された際にも注意が必要だ。
「年配の女性には、子どもや孫から相談を受けた際に“私も昔、被害に遭っていたわよ”“それぐらいガマンしなさい”と言う人もいますが、これは被害者を追い詰める二次被害(セカンドレイプ)になります。“そんな短いスカートをはいているから”と言う人もいますが、服装の露出の多さと性被害は相関がないことが数々の調査でも明かされています。心配して告げたひと言が大切な人を傷つけては、本末転倒です」
もし相談されたら、被害者は絶対に悪くないことをまず伝えたい。さらに医療や法律など総合的な相談窓口も今一度、覚えておきたい。
もちろん国も無策なわけではない。国は4月を「性暴力被害予防月間」として痴漢を含めた性暴力対策に乗り出した。前出の米倉さんは語る。
「痴漢は、各鉄道会社だけでなく、行政が社会全体の問題として取り組むべきもの。私が今年2月に行った本会議での一般質問には、小池百合子都知事も『相談や普及啓発、被害者支援等に幅広く取り組んでいく』と答弁をしています。この認識を足がかりに、都としても一刻も早く具体的な施策を打ち出してほしい」
年齢や性別を問わず誰しもが被害者になりうる痴漢。まずは被害の実態を知り、痴漢は性暴力であることを改めて、認識しなくてはならない。
相談先の番号もいつも近くに
性被害をなくすための動きは、民間でも見られる。
ライターの長田杏奈さんは、友人と最寄りの「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」につながる短縮ダイヤル「#8891(はやくワンストップ)」の非公式ステッカーを制作した。SNSでリクエストがあった全国の個人や店舗、施設に送付している。ほかにもDV相談ナビの非公式ステッカーやリーフレットも作成。スマホなどに貼って身近なものから相談先を伝えたい。
お話を聞いたのは……
日本共産党、豊島区選出。2013年に初当選、現職。都議会議員2期。同党の東京都委員会ジェンダー平等委員会に所属。奨学金や労働問題、貧困、性暴力などの解決に向けて積極的に取り組む
榎本クリニックにソーシャルワーカーとして勤務、さまざまな依存症問題に携わる。著書『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)『「小児性愛」という病』(ブックマン社)『セックス依存症』(幻冬舎新書)など多数
取材・文/アケミン