患者からも好評なオンライン診療
また、オンラインでの診療も行っている。まだ国内でオンライン診療がほとんど知られていなかった2017年に、福岡市の「ICT(情報通信技術)を活用したかかりつけ医機能強化事業」の実証事業に参加したことが契機となっている。
最初の患者は、外来にかかっていた、認知症の高齢男性だった。末期がんにかかり、家族がクリニックまで連れてくることが難しくなったため、家族のスマホを使ったオンライン診療をし、約1か月後の看取りまで行ったという。現在は、オンライン診療と3か月に1回の対面診療を組み合わせた在宅医療を行っている患者もいる。
さらに、患者宅のテレビを使用してビデオ通話ができる在宅医療支援サービスを利用した診察をするときもある。
患者やその家族からは「医師の声だけだと誰かわからないが、画面を見るといつもの先生だとわかりほっとする」という声が上がっており好評だ。
現在は、発熱患者の臨時の往診をオンラインで実施している。まず患者の元に看護師が赴き、患者の状態を確認し、看護師のスマホを通じて医師の診察を行う。患者には看護師が到着する前に、部屋の換気をしてマスクの装着を済ませておいてもらう。看護師は防護服を着用して、なるべく患者に接する時間を短くしている。
オンライン診療は、医師側も患者側も移動時間がかからないという利点があるが、問題もある。双方に信頼関係が成り立っていることを前提としているので、初診の患者の診察は難しい。また、足の傷など部位によっては画面越しでは確認しづらい場合もある。そして、スマホやパソコンなどのデバイスを患者が持っていない、あるいは持っていてもアプリをダウンロードして使うことができないなどの点だ。
「在宅医療では患者の家族が疲弊している場合も多く、精神科医として、その家族を支える役割も大きいと思っています。また、患者の問題は、生活環境の影響で起きていることもあり、その場に行くことでわかることもあります。医師の訪問を嫌う患者もいますが、精神科医は患者との関係を良好にすることにたけているため、他科の医師より受け入れられやすいこともあります」
と説明する。患者家族の疲弊については、広島大学と日本老年医学会による調査・研究でも、コロナ禍で認知症患者が介護サービスを受けられなくなったとき、4割の家族が介護のため仕事を休み、2~3割の家族が精神的・身体的負担が増したと回答している。