正常値の基準は、実は異常だった!?

 過剰な医療は、各種検査の判断基準として用いられる「正常値」によってももたらされる。

「血圧の場合、最高血圧の正常値を130(mmHg)としています。130以上だと血圧高めと判定されるのはみなさんご存じのとおりです」

 岡田先生が健康な日本人2500人を対象に、独自に調べた最高血圧を見ると、130以上を血圧高めと仮定した場合、なんと約半数(46%)の人が該当することになる。血圧が高い人には血圧を下げる薬が処方され、医師に降圧剤を飲み続けるよう指導されている人もいるはずだ。

「しかし、年齢とともに血圧が上がるのはごく自然なことで、一律で正常値を設定するのはおかしい。高齢者の場合、体内で血液を循環させるために血圧が高めの状態で安定しています。これを無理に下げると失神を起こして転倒することも。血圧に限らず、血糖値やコレステロール値などの数値は下げすぎることも怖いのです。正常値にとらわれすぎるのはよくありません」

 ほかにも胃がんの原因とされるピロリ菌の除去で逆流性食道炎になるなど、過剰な医療は別の病気リスクを高めている。

 では、健康診断に対しどのように向き合えばいいのか。

「健康診断の結果は、身体の状態を客観的に把握するためのあくまでも目安。医療に頼りすぎず、自分で生活習慣を見直すことが大切です」

 例えば、血糖値が上がりやすいとわかったら体質改善に取り組む。それによって将来の健康寿命が延びることは医学上、証明されているという。

「ポイントは、食事のバランスと運動。過剰な塩分をとり続けると胃の粘膜が傷つきやすくなり、胃がんになる確率が高まるので減塩は必須です。また運動をほとんどしない人は、よく運動する人に比べて大腸がん、乳がん、子宮がんが1・5倍ほど多いというデータもあり、日々の運動量が長生きに影響します」

 運動は種目を問わず1日30分、週4~5回が原則。1分間の脈拍が「165マイナス年齢」の数値になる程度の運動が好ましく、外国の研究機関ではヨガや太極拳なども評価が高いそうだ。

「生活習慣の改善は真剣に取り組まなければ有効性が望めません。ダイエットと同じでラクをしていたら健康は遠のくばかりです。病院に頻繁に行ったり検査を受けたりする時間やお金を、生活習慣の改善に向ける。そうすることで医療を上回る効果が得られるのです」

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お話をうかがったのは……新潟大学名誉教授 岡田正彦先生●新潟大学医学部卒。医学博士。専門は予防医療学で、遺伝子や細胞を対象とした基礎実験からビッグデータの統計解析まで幅広い研究を行ってきた。『医者の私が、がん検診を受けない9つの理由』など著書多数。