社会とともに変化していった学園もの
2000年に放送がスタートした『ごくせん』(日本テレビ系)も、時代背景を抜きにしては語れない。
「仲間由紀恵演じる主人公“ヤンクミ”の言葉を掘り下げると、『親を大切に』というメッセージをしきりに生徒へ伝えようとしていることがわかります。そして、これがなぜか妙にウケました。その理由として、当時人気絶頂だったDragon AshやガガガSPなど青春パンク勢の歌詞との符合が挙げられます。どちらも親への愛を高らかに歌い上げる曲を数多く発表していた。当時はこんな古臭いことを言われても、素直に『なるほど』と感銘を受ける若者が多かったのかもしれませんね」
『女王の教室』(日本テレビ系)が放送されたのは2005年。当時は、まさにホリエモンブームが世を席巻する時代だった。
「天海祐希演じる教師・阿久津真矢は、初回でいきなり『愚か者や怠け者は差別と不公平に苦しみ、賢い者や努力した者はいろいろな特権を得て、豊かな人生を送ることができる』と子どもたちにカマしています。自己責任論を強く押し出す物言いは、完全にホリエモンっぽいですよね」
『女王の教室』と同時期に放送された『ドラゴン桜』(TBS系)が意識していたのは、効率よくテクニックを学ぶライフハックブームだ。
「阿部寛が演じた教師・桜木建二の語録に『受験に知能はさほど必要ありません。必要なのは根気とテクニックです』があります。つまり、要領のよさと『間違った方向で努力してはいけない』というメッセージですね」
『ROOKIES』(TBS系・'08年)で佐藤隆太が演じた川藤幸一は、型破りでまっすぐできれい事をちゃんと言う教師像。自己責任論を押し出した『女王の教室』『ドラゴン桜』と比べると明らかに時代に逆行しているが、一方で世相を反映した部分もある。
「川藤は国語教師で、生徒を諭す際に偉人の名言を引用するのが好きでした。これは、当時起こっていた名言ブームとうまくシンクロしています。あと、彼は『夢』『希望』『努力』という言葉を多用します。名言ブームと同時期に起こっていた自己啓発ブームともリンクしていました」
時とともによしとされる教師像は変わっていき、それらは時代時代の社会状況と密接な関係にある。その一方で愚直に正論をぶつける教師像がいつの時代も共感を呼ぶという事実もある。結局われわれは、いつの時代も熱い先生を欲しているのだろうか?
「やっぱりみんな、でかい声で正論を言う金八には負けてしまうところがあると思います(笑)。正論をどう言ってくれるのか、そんなところをわれわれは学園ドラマに期待しているのかもしれません」