「そもそも2人はママ友なんかじゃなかった」
それはマスコミが曲解する原因ともなった、夫への寺院の住職からのいじめだ。毎朝寺院の門を開ける夫の姿を見ていたと、近隣住民の70代女性は今も記憶に留めている。
「継ぎ手がいないからと寺に迎え入れられたんです。雪の日には掃除をしてくれ、まじめな方でした。妻(加害者)も掃除のお手伝いに行っていました。でも夫は住職に気に入られず、いじめられていましたね。『叩かれたこともある』と聞きました。かわいそうでした」
そんな中で出会ったのが、秋本さんだった。互いの長男を自宅近くの公園で遊ばせていたのがきっかけだ。2日しか誕生日が違わないことがわかって言葉を交わすようになり、それぞれ第2子を妊娠、出産。長男は同じ幼稚園に入園した。
そして事件が起きた。
直前、美恵子の長女と秋本さんの長女・桃香ちゃんは、国立大付属幼稚園の受験準備を進めていたが、美恵子の長女が抽選で落ち、桃香ちゃんが当たった。この明暗が、お受験と事件の因果関係を指摘する報道につながった。
だが、実際はどうだったのだろうか。
冒頭に登場した女性は現在、その幼稚園の園長を務め、美恵子、秋本さんとは当時、同じクラスに息子を通わせた保護者同士だ。事件発生以来、沈黙を貫いてきたが、今回、初めてメディアの取材に口を開いた。
「お受験に夢中になった親同士がぎくしゃくして、恨みつらみが事件に発展したという報道が多かったですが、お受験と事件は関係ありません。昔も今も、国立幼稚園のお受験では、抽選という努力ではどうにもならない運次第。そもそも2人はママ友なんかじゃありませんでした」
美恵子と秋本さんの関係については、幼稚園での互いの長男の様子を思い出しながら、こう説明した。
「加害者の長男は静かな子で、絵を描いたりとそれほど外で活発に動く子ではありませんでした。逆に秋本さんの長男は活発で、外で走り回る元気な子でした。子どもたちの遊び場が異なっていましたから、親同士に接点があったようには見えませんでした」
幼稚園に入園する前はたまに付き合っていたが、入園後はそれほどでもなかったようだ。秋本さんが、美恵子をいじめていたという報道については、ばっさり否定した。
「加害者を弱者に仕立て上げ、被害者の母を悪者にした。秋本さんは娘を失った悲しみだけでなく、取材に怯え、外へ出られませんでした。大切な娘の思いを静かに馳せる時間を奪い去った報道機関の罪は大きいと思います」