いじめ対策の基本は「証拠を残す」

 いじめの内容を問わず、まず取り組んでほしい対策がある。証拠を残すことだ。

「子どもからいじめの報告を受けたら、スマホの録音機能やレコーダーなどを持たせて、加害者や学校との会話をすべて録音するようにしてください。そして起こった出来事を4つのWでまとめましょう。when・いつ、where・どこで、who・誰が、what・何をしたのか。これらの客観的事実を整理しておくことが大切です」

 LINEやインスタグラムなど、SNSを介したいじめのケースでも証拠を残しておくことが重要だ。

「必ずスクリーンショットやデータのバックアップをとっておきましょう」

 前述した情報操作型・支配型のいじめの場合、阿部さんは登場人物を整理することから始める。

「よくテレビドラマに、登場人物の関係性を示した相関図がありますよね。あれと同じようなものを作るのです。いじめの加害者、傍観者、親や教師など、被害者との関係性を明確にしたうえで、いじめを証言してくれそうな協力者を探すわけです。

 いじめを受けていると、加害者同士が結託しているように見えるかもしれませんが、その多くは一枚岩ではありません。本当はやめたがっている人物、グループから離れたがっている人物もいるので相関図から分析し、目星をつけてアプローチしていきます」

 今年3月、『文春オンライン』が報じた旭川中2女子凍死事件は世間に衝撃を与えた。脅迫されて裸の写真を撮らされ拡散される、自慰行為を強要されるなどの性暴力を含むいじめが背景にあったと指摘されている。

 亡くなった女子生徒はソーシャルゲーム『荒野行動』を通して一部の加害者と知り合ったとされている。

「過去にソーシャルゲーム内で起こったいじめ相談を受けたときには、実際に私がゲームの世界へ入り、加害者へ直接コンタクトを取って、いじめをやめさせました」

 ゲーム上だけの関係であれば、相手をブロックして管理者に通報するなどして関係性を断てばいいが、実生活でも知り合いの人物であれば対応は異なる。

「ゲームをする際のアカウントを変えるなど自己防衛をしたうえで、学校や教育委員会への相談をおすすめします」

 ここで気をつけておきたいのが、被害者と加害者で学校が異なる場合。旭川市の事件では、女子生徒の通う学校側が「わいせつ画像の拡散は校内で起きたことではないので、学校として責任は負えない」と述べたと報じられている。

「責任を負えないというのは法律上、誤りで許されない行為です。いじめ防止対策推進法(以下、いじめ防対法)では“いじめが起きた場所は学校の内外を問わない”と定めています。保護者からいじめの申告があった時点で、学校は調査する義務が生じているのです。でも実際は、校外で起きたことを理由にいじめを認めようとせず、隠蔽に走る学校が後を絶ちません」

 学校に訴えても動かなければ、最寄りの教育委員会に働きかけることもできる。

 厄介なのは、私立校でいじめが起きた場合だ。公立校と違って各教育委員会の管轄ではなく、いじめ対応の責任者も、学校法人の理事長が担うこともあれば、各都道府県知事ということもあり、学校ごとに異なるからだ。

さらに私立校は、公立校以上にマイナスイメージがつくことを嫌います。組織的な隠蔽を図り、事実を隠す傾向に走りやすい。私の経験でも、学校と役所との連携が取れておらず、対応してくれないケースがほとんどでした」

 こうなると素人ではお手上げ。阿部さんや、いじめ問題に詳しい弁護士などのプロに相談したほうがいいだろう。