「性的いじめ」は中学生から本格化
最近、阿部さんは「いじめ防対法の範疇を超えた相談が増えた」と感じている。
「いじめ防対法の対象は、小学校から高等学校までに在籍している児童・生徒。幼稚園や保育園に通っている子どもたちには適用されません。しかし現実には、そこでもやはりいじめが起きています」
そんなに小さな子どもたちの間でいじめが起きていること自体、驚いてしまうが、もっと衝撃的なのはその内容。
「先日受けたのは、性器をいじられケガをしてしまったという相談でした。大人のまねをしたなど悪意を感じないケースがほとんどですが、幼児の間で起こる性的いじめは証拠集めが非常に難しく、立証も困難になります」
阿部さんによれば、性的いじめは幼児や小学生にもみられるものの、本格的に増え始めるのは中学生から。大人であれば刑法犯になるような行為が頻発しているという。
阿部さんのもとへ、いじめに伴い集団レイプされた女子中学生本人から「死に方がわからない」と電話がかかってきたことがある。
女子生徒は自ら「レイプされた」とは言わなかった。だが、実際に会ってみると、指には噛んだような自傷行為の痕があり、誰かともみ合ったときにできたと疑われるすり傷もあった。そのため阿部さんはレイプ被害と確信。本人の気持ちに寄り添いながら起こったことを聞き出し、女子生徒の両親へ報告した。
「性被害に遭った生徒の心身のダメージは大きいです。それだけでなく、高い確率で動画を撮影されています」
前述した旭川市の事件でも、自慰行為の強要や、わいせつ動画の拡散行為があったといわれている。
「1度、拡散されてしまった動画を完全に消し去ることは難しい」と阿部さんは言う。
「性的いじめはセンシティブな内容であり、あくまで被害者の気持ちを優先させなければいけない事案。本人と、その家族の意思や要望を聞きながら慎重に調査を進めます。裁判に持ち込むといっても、多くの証言が求められることとなり被害者の負担が大きく大事にならないよう処理されることも少なくありません」
いじめで子どもの心身に重大な被害が生じた疑いや、長期にわたって欠席を余儀なくされている疑いがあると、いじめ防対法では「重大事態」と定義される。そうした場合に文科省は、学校側に「第三者委員会」を設置して調査するよう求めている。
だが、第三者委員会でもトラブルが続出。阿部さんは著書の中で京都の公立校で起きたいじめを例に挙げている。
被害生徒は休み時間に、加害生徒に無理やり教室から連れ出され、右手関節ねんざや右ひじ関節脱臼などのケガを負った。しかし学校側はいじめと認めず、被害生徒の保護者は話し合いを求めていた。
事件から1年8か月後、京都府教育委から保護者に連絡があった。いじめの経緯を書いて送ってくれというのだ。指示どおりにすると、第三者委の設置を申し立てたことにされていた。保護者は府教委から何の説明も受けておらず、第三者委を設置したいか確認もされていない。被害生徒への聞き取りもない。
「問題は、多くのケースでいじめ防対法を曲解し、第三者委員会は勝手に調査を進めていいと解釈していることにあります。その結果、独自にメンバーが決められたり、加害者と近い関係にある委員が選出されたりしているのです」
これでは十分な調査ができるはずもない。いじめの真相解明から遠のくばかりだ。