政権批判も厭わない
もっとも一茂はタダ者ではない。それは金曜日のコメンテーターを務めている『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)のコメントを聞いていると、よく分かる。たとえば、ほかの芸能人コメンテーターなら嫌がる政治の問題もズバズバ発言する。
印象深いのは森田健作・前千葉県知事(71)が、2019年9月に同県を台風が直撃した際、公用車で別荘に行っていたと報じられた時の発言である。
会見で森田氏が「公用車から自分の車に乗り換え、視察していた」などと苦しい釈明をしたのに対し、一茂は「不謹慎かもしれないけど、会見を見て笑ってしまったね」とバッサリ。さらに「この方はトップとして適任なのか」などと容赦なく非難した。
政権批判も厭わない。見ていてハラハラするほど。『モーニングショー』でも自然体であり、計算がないのだ。
「(他人から)どう思われたっていい」(『家庭画報』2020年1月号より)
日本は苦労人ばかりを讃える風潮が強いものの、一茂の場合は何不自由なく育ったからこそ、忖度しない人格が作り上げられたのだろう。
好感度を得ようと視聴者に媚びを売る芸能人や上司にへつらうサラリーマンとは大違い。視聴者側としては新鮮だし痛快だ。
一茂は格好を付けることもない。5月28日の『モーニングショー』で安さを売り物にする通信販売の危険性が特集されると、自らの失敗談を話し始め、警鐘を鳴らした。
「僕も大学のとき、歌舞伎町で『飲み放題、遊び放題で2500円ポッキリ』という呼び込みに騙されたことがあります…おいしい話はないと思ったほうがいいです」
ここまでリアルで説得力のある話をするコメンテーターはほかに知らない。
奔放な発言を繰り返すと、敵を作りやすいが、一茂を嫌う声はまず聞かない。ミスタージャイアンツこと父親の長嶋茂雄氏(85)から、人に愛されるDNAを受け継いだのだ。
プロ野球ファンの中には一茂が偉大な父親の野球的素質のすべてを受け継がなかったことを嘆く声があるものの、何をやっても愛されてしまう才能はしっかりと継承したのである。
かつて茂雄氏は記者から「好きな番号は何ですか?」と問われた際、「ラッキーセブンの3」と、平然と答えた。どこか一茂のおおらかさと通じる。
一茂の芸能界でのここまでの成功を予想していた人はいただろうか。もっとも、育った環境とDNAを考えると、不思議なことではない。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立