そもそも最初から乗った電車を間違えていたようだ。
「実はさ、もうじき娘に初孫が生まれるんだよ。だから女房には“早く帰ってきてね”と言われていたんだけど……そのうれしさもあってかなぁ、ついつい飲みすぎちゃった」
そんな大切な日に乗り過ごし。うれしくて羽目をはずす気持ちもわかるが……。すると記者に逆質問がきた。
「タクシーだといくら?」
5万円ぐらいじゃないかと伝えるとしばし思案。違った問題も噴出していたのだ。
「俺さ、妻に浮気を疑われてんだよね。でも、5万円で帰ったらそれも怒られるし……」
結局、川田さんはカラオケで過ごすことを決めた。翌日の川田家の事情は記者も気になるところだ……。
選択肢が限られる始発までの過ごし方
大月駅25時。終電を乗り過ごした乗客の悲喜こもごもの人間模様が見えていた。
乗り過ごした際の選択肢は5つ。「近場で車があれば迎えに来てもらう」「タクシーで帰る」。始発を待つなら「駅前のベンチ」「駅前のホテルに宿泊」「カラオケボックスで過ごす」だった。
だが、このコロナ禍。乗り過ごし客も減少している。大月駅前のホテル従業員は、
「飛び込みでは泊まれないほどに乗り過ごし客が多い時期もありました。でも、今は予約客が全員チェックインしたら深夜は受けつけていません。今日(5月28日)はたまたま開けていたので、さっき泊まった方はラッキーです」
駅前のタクシー運転手もうなだれる。最近、乗り過ごし客がいるのは週末のみ。
「タクシーに乗るお客さんは、中央線沿線に住んでいる人がほとんど。八王子や立川が多く、料金は2万円、3万円ほど。前に千葉に住む人が東京駅から電車を勘違いして乗り込み、大月に来たことがあった。6万円以上かけて送っていったことも……」
このコロナ禍が落ち着けば、再び大月駅で一夜を明かす人は戻ってくるだろう。
乗り越しは財布と家族関係には大きなダメージ。くれぐれもご注意を。
(取材・文/山嵜信明)