“恩恵”よりも大事なこと
離別、死別のおカネ事情についてファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんにお話をうかがった。主に家計管理についての取材を受ける風呂内さん。彼女の元には、夫婦のどちらかが亡くなった場合のおカネを心配して問い合わせをする人も多いという。
「『一人口では食えないけど、二人口では食える』という言葉がありますが、例えばすでに退職されているご夫婦の場合、主に年金が収入源になるため不安を感じるご家庭は多いものです。そして、夫婦どちらかになってしまった場合、安心して暮らしていけるのか心配されて問い合わせをされる方も。コロナ禍ということもあり、今と将来、両方のおカネの不安が高まっているのを感じますね」(風呂内さん)
厚生労働省の提示するモデルケースによると、令和3年度の年金受給額は夫婦合計で22万円程度となる。
死別の場合(夫婦とも65歳は越えていると仮定する)妻が受給できる遺族年金は月13万円程度。これがもし現役時代の早期離婚となると、婚姻年数に応じた計算になり、早く離婚すればするほど受給できる金額は少なくなる。
さらに財産は分割となって、住宅ローンも残り、そして子どもがいる場合は養育費をアテにしながらの生活となる可能性が。しかしこの養育費には「元夫が支払ってくれない」というリスクがあるのも周知のところだ。厚生労働省によると半数以上の母子世帯が養育費を受け取ったことがない、と答えている。つまり、40代、50代の離婚は妻側が困窮するケースが多いのだ。
住宅ローンに関していうと、死別の場合、夫がローンの契約者であれば団体信用生命保険によって保険会社が代わりに完済してくれる。さらに18歳以下の子どもがいる場合、遺族基礎年金の受給もできるため養育費の不安も減る。
そしてこの遺族年金などに加え生命保険金が入れば、離婚による財産分与よりはるかに条件がよい。生命保険文化センターによると、死亡保険金額は40~54歳では平均して3000万円ほどとなっている。離婚でこの額をもらうケースは少ないだろう。子どもがいた場合は、遺族年金に子ども1人当たりの加算額があるため、年間合計150万円程度の支給もある。
こうしてざっくり見ていくと、離婚より死別のほうが妻が受け取れる金額は多くなる。しかし、死別によって「夫が稼ぐかもしれなかった収入は一切なくなること」を忘れてはいけない。正社員、自営業、アルバイト、パート。どんな形態であれ、夫から生み出される稼ぎはゼロ。運よく夫が投資に成功したり、宝くじに当たったり。おカネが転がり込む、そんな「もしも」の可能性もなくなるのだ。
さらに風呂内さんは言う。「夫の死後のおカネを心配しつつも『長年連れ添った思い出は、かけがえのないもの』と話してくれる方も多いです。家事を効率よくこなしたり、近所付き合いやお互いの健康管理に気を配るなど、夫婦で支え合って生まれる“豊かさ”はおカネでは換算できないものですよね」
夫の愚痴を書き込むサイトに「夫が死んだら自由かな、ひとりでも生きていけるかな、と思ったりしたけれど……子どもが育ったあとを考えると、いないよりはいるほうがマシかも。ならば、私の手をわずらわせないよう、せめて健康でいてほしいと願う」という投稿を見つけた。
この“せめて健康で”というのは、多くの妻たちの本音に近いのではないか。