増加し続ける「孤独死予備軍」

 さらには「孤独死予備軍」となりうる多頭飼育崩壊案件も増加している。

 神奈川県の動物愛護推進員で動物愛護団体『動物虐待インターベンション』の河野治子さんは困った様子で担当したケースを教えてくれた。

「心筋梗塞を発症した60代のひとり暮らしの男性がいました。猫を6匹飼っており、彼は救急搬送されたのですが“猫が心配だから帰してくれ”と入院を拒みました……」

 家に帰れば孤独死の恐れも。河野さんのもとに相談が入り、男性を説得。猫の一時保護の約束を取りつけた。

 保護のため男性宅に入るとそこはゴミだらけ……。

「生ゴミもお弁当のパックも床一面にゴミが積み重なっていました。猫の糞尿と生ゴミが発酵する臭いがしました……」(河野さん、以下同)

 そんな過酷な状況の室内で猫はゴミの中に隠れていた。

「生き地獄のような環境でした……」

心筋梗塞を患った男性の自宅。ゴミの中に猫が……(動物虐待インターベンション提供)
心筋梗塞を患った男性の自宅。ゴミの中に猫が……(動物虐待インターベンション提供)
【写真】「まるで生き地獄…」猫が生き延びていた60代男性のゴミ屋敷

 男性は寝る場所もゴミの上、食事はたんすの上にのせたカセットコンロで行い、かびた味噌で味噌汁を作る。健康を害するだけでなく、火事のリスクも高い状況だった。

「こうした家で暮らす高齢者は珍しくありません。もともと孤立していたのに猫も増え、世話ができないことで周囲から疎まれ、さらに孤立してしまう。そして傷んだ食べ物や偏った食生活、掃除も拒み、空気も悪いし病院にも行かないので健康状態は特にひどい」(飯田さん、以下同)

 そんな状況下での生活は死と隣り合わせ。

不衛生な環境は病気になってもおかしくない(動物虐待インターベンション提供)
不衛生な環境は病気になってもおかしくない(動物虐待インターベンション提供)

 孤独死や入院などの理由で飼い主が飼えなくなると残された動物たちは殺処分の対象になってしまう。現在、殺処分の90%以上が前述の理由で引き取られた動物なのだ。

 だが、動物は飼い主の所有物。相続人の許可がなければ第三者は保護できない。

 飼い主が孤独死したあと、残された動物が自宅に閉じ込められるケースが各地で相次ぐ。行政は自宅の鍵を締め、相続人任せで保護はしない。だが世話に来なければ第三者は動物にエサも水もあげることができない。当然、一刻も早い保護が求められるが、保護団体らが抗議しても行政や愛護センターの反応は鈍い。

「動物の所有権は大きな問題です。飼い主が亡くなったとき、飼い主が認知症で判断能力を失ってしまったり、病気などで意思疎通が困難になったときはもちろんのこと、明らかに飼い主の手に負えないほどのペットが増えてしまったときにも、人間の子どもの虐待事件のように一時保護できる仕組みが必要です。緊急的に一時保護ができれば、飼い主の支援だけでなく動物のその後についてもゆっくり決めることができます」(河野さん)