気軽に保存した画像がトラブルの種に
●ネット上で保存した推しアイドルの画像。最高に可愛いので自分のアカウントで投稿したんだけど、布教活動だから大丈夫だよね?
「残念ながら、著作権などの観点から形式上は完全にアウト。例外的に大丈夫なのは、画像の著作権者が許可している場合のみです」
「ネットに上がってるものを引用しただけ」などと言い訳する人もいそうだが、
「文章でも画像でも、引用する必要性が認められない場合はアウト。トリミングしたものであってもNGです」
【引用について】
引用とは、『自説を補強するために、他人の作品から文章の一部や画像を断りなしに使うこと』を指す。引用の主な条件として、『他人の著作物を引用する必要性』があり、報道・批評・論文などのための『正当な範囲内』であること/引用部分がオリジナルの内容よりも圧倒的に少ないなど、明確な『主従関係』があること/引用した箇所にはかぎ括弧をつけるなど『引用部分が明確に区別されている』こと/『出所の明示』がされていること/などが条件とされる。
転載とは、自身の著作物よりも多く、他人の著作物を複製または掲載することを指し、著作権者の許可と出所の明示が必要。無断転載などは著作権法違反になる。
保存したままの画像がダメなら、ちょっと加工すればセーフなんじゃない?
「それもアウトです。写真の著作権は撮影者にありますし、写っている本人側から見ると肖像権の侵害にもあたり、あまりに悪質な場合は、著作権と肖像権のダブルで引っかかる可能性もあります。権利者側からの対処として考えられるのは、投稿者を運営に通報してアカウントを削除するとか、著作権・肖像権の侵害で損害賠償請求をするといったところ。
また、アイコラ(アイドルなど有名人の写真を別の状況にある写真のように作り替えること)やディープフェイク(人工知能を用いて、実在しない人物の映像・動画などを制作する行為)は問答無用でアウト。実際に、名誉棄損罪で検挙されたケースもあります」
画像の二次使用やアップは、善意のつもりでも法律的にはアウト。おとなしく個人利用にとどめておこう。
●雑誌で読んだ内容が興味深い! みんなにも知ってほしいから内容がわかるように撮影してアップしたんだけど、少しならいいでしょ?
「これは著作権侵害にあたり、賠償責任が課せられることもあります。発行側が許諾している場合は大丈夫ですが、ただ黙認しているだけの場合は、いつ突っ込まれても言い逃れはできません。ちなみに、賠償金の計算の仕方はいくつかありますが、例えば『その号の定価を全体のページ数で割った数字に、アップしたページ数と閲覧数を掛けた数』といった計算方法もあります。莫大(ばくだい)な金額になることもありますよ」
上記の計算式に当てはめて例を挙げよう。定価500円で100ページある雑誌のうち、10ページぶんを撮影してアップしたとする。もし1万人が閲覧した場合の罰金額は、500÷100×10×10000=50万円となるわけだ。
さらに、雑誌や新聞などの紙媒体はもちろん、ネット上の記事にも注意が必要だという。
「無料のネット記事についても、引用の条件を満たしていれば引用とみなされます。しかし、全文引用や丸ごとスクリーンショットしたものをアップするなどの行為は引用とは言えず、アウトになります。ネットの記事を紹介したいならURLを貼ればいいし、Twitterなどであれば、オフィシャルの機能であるリツイート(引用リツイート含む)すれば、罪に問われることもありません」
では、テレビ番組の一部分の写真だったり、動画をアップするのは?
「一部なら引用が成立してOKの場合もあるかもしれません。しかし、一場面のキャプチャではなく、動画の映像そのものをアップしたとすると、分量が全部でなくても引用としては許されず、アウトになる場合が多くなるでしょう。これらの違法アップは、著作権法違反で突っ込まれても言い訳の余地がありません」
この記事を読んで、何気なくやっていたSNSでのアウトな言動に心当たりがある人もいるかもしれない。近年では日常会話の延長でSNSを利用する人も多いが、インターネット上に投稿した情報は、当たり前だが誰でも見ることができるため注意が必要だ。発信する前に改めて「内容や法律的にまずくない?」と、よく考えるようにしたい。
(取材・文/松嶋三郎)
《識者プロフィール》
中澤佑一(なかざわ・ゆういち) ◎弁護士(埼玉弁護士会所属)。弁護士法人戸田総合法律事務所代表。インターネット・IT関連紛争の分野を得意としており、削除請求・発信者情報開示や、知的財産関連の法律問題を中心に活動。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(中央経済社)など。
【事務所HP】https://todasogo.jp/ 【Twitter】@nakazawaYUU
《筆者プロフィール》
松嶋三郎(まつしま・さぶろう) ◎フリーライター。兵庫県神戸市生まれ。「執筆するジャンルも内容も媒体も幅広く」をモットーに、堅いネタから柔らかいネタまで取材し、紙・webを問わず多数のメディアで執筆中。
【Twitter】@matsushima36