『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)、『Night Doctor』(フジテレビ系)と、この夏も医療ドラマが「熱い」予感!でも、どこまで肉薄しているものなの?実際の医師たちに、思い出の医療ドラマ、すごいと思った医療ドラマをおうかがいしました。ドラマの見方が変わるかもしれませんよ!
今夏のラインナップにも2作品があるように、ドラマの黎明(れいめい)期からたえ間なく制作され、根強い人気を誇る医療ドラマ。
しかし、手術シーンや心理描写など、本物のお医者さんたちは、それらの作品をどういう思いで見ているのだろうか?
医療の道へ進むきっかけになった
“派閥医療ドラマ”の傑作『白い巨塔』は、多くの若者に医療の道へ進むきっかけを与えた名作だ。愛知県名古屋市「ちくさ病院」副院長で総合内科医、在宅医の近藤千種さんは「大学病院の闇を描いた濃密なストーリーは何度見ても面白い」と、このドラマを絶賛する。
「医師を目指すよりも前に見た作品でしたが、主人公・財前五郎が見せる人間の野心、醜さ、強さに引き込まれ、この職業を意識するきっかけになりました」
近藤さん以外にも、同作に影響を受けた医師は多い。
「ドラマを見ていたころはまだ幼かったのでその後医師を志すとは思っていなかったのですが、後々、外科医のカッコよさに惹かれるきっかけになったと思います」(金沢市「eクリニック」院長で美容外科医の円戸望さん)
さらに、「埼玉みらいクリニック」院長で内科医、皮膚科医の岡本宗史さんが興味深い話を明かしてくれた。
「このドラマの舞台となった浪速大学は大阪大学がモデルです。私の父も大阪大学の病院に勤めていたので、登場人物のモデルになったドクターについて以前から聞かされていました。
例えば、財前五郎のモデルは第二外科の神前五郎先生で、原作者の山崎豊子さんはもともと、神前先生が主治医だったんです。神前先生は財前のように欲にまみれておらず、医療にまっすぐな人格者ですが、そうした背景を知りながら見る『白い巨塔』は非常に面白かった。
また、財前のライバルの里見脩二という内科医は人情深くて中立で優れた医師というイメージですが、医者になってからドラマを見返すと彼に対する印象が180度変わります。劇中で亡くなった患者さん(佐々木庸平)は内科からの紹介で外科に移りましたが、外科に行ってからも里見は診療に口出ししてくるんですね。
ほかの科に投げておいて後から意見を言ってくるなんて、われわれの世界では絶対にありえません。あと、里見が患者の家に勝手に訪問する場面もありましたが、これは公私混同になってしまうので絶対にやってはいけない行為。だから、本当に危ないのは財前より里見のほうなんですね(笑)。そういう目線で見ることができるし、面白い作品だなと思います」
『白い巨塔』以外にも、医師を目指す若者の背中を押した医療ドラマは少なくない。
「医者になるきっかけといえば、『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系)が印象深いです。織田裕二と石黒賢の対立や権力争いが描かれているので、『こういう世界なのか』と思わされました」(福岡県みやま市「工藤内科」副院長で糖尿病内科医の工藤孝文さん)
「椎名桔平さんが主演を務めた『破裂』(NHK)は中学時代に原作小説を読み、子どもながらに医療経済について考えるきっかけになりました。医療経済を潤すために人口を意図的に減らすというストーリーにはいろいろと考えさせられましたね」(円戸さん)