信頼していた司祭から受けた性的暴行を告発し、実名で声を上げた女性がいる。PTSDに苦しみ、自分を責め続け、アルコールやギャンブルの依存症にも陥った。事件から約40年。いま裁判に踏み切った理由と、闘いに込めた思いとは──?

被害意識より先に罪悪感

 1977年。鈴木ハルミさん(当時24)は、宮城県沿岸部にあるカトリック教会の日本人司祭・A氏に救いを求め、相談に乗ってもらっていた。

 そのころの鈴木さんは多くの問題を抱えていた。職場では病院の不正行為を告発し、共闘するはずの仲間に「あなたひとりでやったこと」と裏切られ、自殺を図った。家庭では夫からDVを受けていたのに加えて、義母の介護に集中するため、カトリックでは罪となる中絶をした。

 その苦しみからの救いを求め、A司祭に話を聞いてもらっていた。ところが3回目の相談で、A司祭は突然、鈴木さんを抱きしめ、耳もとで「後悔しないね?」とささやいたのだ。鈴木さんは、「神の代理人」の予想外の行為に頭が真っ白になった。気づけば別室のベッドにいて、全裸の司祭が身体の上に乗っていた。その後、帰宅までの記憶はいっさいない。

 これは司祭の立場を利用した性暴力で、重大犯罪だ。だが当時、鈴木さんは被害の意識よりも、むしろ「私は教会を汚した」と罪悪感を抱いた。罪悪感から逃れるために依存したのが、酒とパチンコと買い物だった。

 罪の意識にさいなまれ、約40年にもわたり苦しんできた。それでも生きのびたのは、子どもたちのためだ。

 だが、生きるためとはいえ、依存症が深まれば出費は増え、気づけば借金は770万円に膨れ上がった。49歳で自己破産。再婚して新しい名字になると新しいクレジットカードで借金して、また自己破産をした。

 苦しみからのうつ状態に加えて、人間不信に陥り、どの職場も入った翌年には辞め、4回の結婚生活はいずれも破綻した。