未成年者の市販薬の乱用が増加

 国立精神・神経医療センター精神保健研究所の松本俊彦・薬物依存研究部部長(精神科医)は、全国の精神科医療施設で調査。10代の薬物乱用で、市販薬が多用されていることを明らかにした。

「危険ドラッグ規制以来、10代では特に、市販薬の乱用は増えました。(亡くなった2人が)死のうと思って飲んだとすれば、さらにいつもよりも多くの量を飲んだ可能性もありますね」

未成年の薬物使用を調べた表で市販薬の乱用が年々増えていることを表したデータ(松本さん提供・グラフ/こうき)
未成年の薬物使用を調べた表で市販薬の乱用が年々増えていることを表したデータ(松本さん提供・グラフ/こうき)
【写真】亡くなった男性のものと思われるTwitter、飛び降りる数時間前の投稿

 市販薬のODは、危険性を伴うことを指摘する。

「非合法薬物の成分が微量ですが、入っています。また、ほかの成分によって、肝臓や腎臓の機能が悪くなることも。大麻のODでは死ぬことはないですが、市販薬のODで死ぬことはありえます。さらにエナジードリンクやストロング系のチューハイを飲むことで体調悪化が拍車をかけます」

 なんのために市販薬のODするのか。

「臨床経験でいえば、性被害や被虐待経験者が多いです。患者さんたちは『消えたい』『いなくなりたい』『死にたい』を紛らわせるために飲んでいます。日ごろから居場所がない子たちなのです」

 家庭や学校に居場所がない若者たち。SNSで知り合った、悩みを抱える同年代の若者たちと友達になるために、トー横に集まっている。コロナ禍でもあり、さらに居場所がないと感じているのだろう。

年代別の薬物使用を調べた表でも、未成年の市販薬の乱用が多いことを表したデータ(松本さん提供・グラフ/こうき)
年代別の薬物使用を調べた表でも、未成年の市販薬の乱用が多いことを表したデータ(松本さん提供・グラフ/こうき)

 もちろん、市販薬ODは危険を伴うだろう。ただし、若者たちが、トー横に集まらなくなったとしても、別の場所を探し、市販薬のODをするだけ。ODをしてしまう背景の解決にはつながらない。

 こうした状況に、「警察の問題というよりも、福祉の問題です」と松本医師。前出の竹田さんも、「普通に見える子どもたちのSOSに気づいてほしい。大人は正論をかざすが、説教や経験を述べるのではなく、ただ、ひたすら若者たちの声に耳を傾けてほしいのです。悩みがあれば、一緒に解決策を探すことが大切」と、大人に忠告する。

 “トー横キッズ”に見られる現状は、大人たちがサインを見逃した結果ともいえるのではないだろうか。

取材・文●渋井哲也(しぶい・てつや)●1969年生まれ。新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションや学校問題、自殺などを取材。著書に『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)、『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか