こんなはずじゃなかった…家を失った人が転落した闇

コロナ禍で家を失う人々。彼らは今、何を思うのだろうか。

Case 1 勤めていた工場はストップ収入は半分以下に

Aさん・男性58歳・妻子あり

 Aさんは群馬県在住。大手タイヤメーカーの製造工場に長く勤めてきた。30歳で2500万円の新築戸建てを購入、あと7年で支払いが終わるというときにコロナ禍に直撃された。

「2019年に中学生の子どもがいる40代の妻と再婚。今後、教育費がかかるというときに、コロナ禍で工場が止まり、月収が20万円から8万円になりました。6月にはボーナス返済で19万円支払うはずでしたが、結婚したときに車や家具などの購入で100万円を使ってしまったこともあり、生活費でいっぱいいっぱい。仕方なく先延ばしにしていたところ、銀行からは督促の封書が来ただけでした。それで軽く考えていたんですが……」

 そうやって6か月間放置していたら、とうとう銀行から、一括返済を求める通知が。

「その前に銀行から電話もきていたけれど、自粛で気がめいっていたから対応する気になれなくて。気づいたら最終通告となっていました」

 残債は340万円。銀行に任意売却を了承してもらい、目下買い手を探している。

「リースバックで自宅に住み続けるのが希望だけど、群馬の片田舎だから難しいかもしれないよね……」

 たしかに自業自得といえるかもしれない。しかしあの自粛期間中に収入減の不安と戦いながら新しい家庭を守ろうとした彼を、誰が責められるだろう。

Case 2 カードローンに手を出し多重債務で泥沼化

Bさん・女性51歳・独身

 Bさんは東京都三鷹市在住。20年前に3000万円の30年ローンを組み中古戸建てを購入。これまで歩合制の営業として働いてきたが、コロナ禍で突然営業活動がストップしてしまった。

「私は飲食関係の営業職だったのですが、コロナ禍で突然営業先に行けなくなりました。さらに飲食業界がしばらく日の目を見ないことがわかり、配達のアルバイトも掛け持ちして生活しています」

 ローンの残りは1500万円。2020年に4か月ほど仕事ができない日々が続き、月12万円のローンは返せなくなった。

「実は足りない分をカードローンで借りていたので、先にそっちを返済していて。その金利が高くつき、ついに首が回らない状態になりました。銀行や消費者金融、知らない不動産会社からも電話が来て、怖かったです」

 Bさんの滞納歴はすでに15か月。家の競売手続きが始まっている。

「競売が成立する前に任意売却で買い手を見つけて、何としても今の家に住み続けたい。あのときカードローンではなく住宅ローンを払っていたら。安易に支払うのをやめなかったら。もう遅いですけどね」

 長く働いてマイホームに住み続けようと思っていた。そんな当たり前の日常が、守り切れなくなっている。

(取材・文/金指歩)


教えてくれたのは……相樂喜一郎さん●リビングイン代表取締役。東京都港区六本木に本社を構える不動産管理会社。2012年設立。住まいのトラブルに特化し、空き家、隣人、契約問題を無料で相談できるサービスを提供。これまでに300件を超えるトラブルの対策提案を行う。