裁判長から“説諭”が始まる
その後、50分にわたって読み上げられた判決の理由。その間、傍聴席から見える飯塚被告の後ろ姿はピクリとも動かず、ぼんやり見ていただけではほとんど変わらなく映っただろう。
裁判長は、次のように締めくくった。
「事故はブレーキペダルとアクセルペダルの踏み間違いによるもの。それは基本的な注意義務のひとつであり、その過失は重大であります。被告の一方的な過失です」
さらに、ここから裁判長としては異例ともいえる説諭が始まった。
「遺族の精神的、身体的な苦痛、永遠に別れなければならない悲しみは深く、まったく埋められていません。被告は真摯に向き合って、遺族に謝罪していただきたい。被告は過失を否定していて、深い反省をしているとは思えません」
このとき、被告に少しだけ動きがあった。裁判長から遺族への謝罪を促されたとき、軽くうなずいたのだ。
裁判長が重ねる。
「過失は明白であり、納得できるのであれば、遺族の方々に謝罪、真摯に謝っていただきたい。納得できないのであれば、14日以内に控訴申立書を書いていただきたい」
最後にそう告げられたとき、被告の身体がピクリとも動かず、うなずきもしなかった。
終始、自身の過失を認めず無罪を主張し続けてきた被告。だが、裁判長の“控訴”という言葉にまったく反応しなかった様子は、最後の最後で自身の罪を受け入れたようにも見えた――。
きっちり1時間で閉廷。ひと言も言葉を発する機会を与えられなかった飯塚被告は、裁判長に深く一礼をして、車椅子で退廷していった。