七尾さんによれば、フードレスキューに申し込んできた人の9割以上が保健所と連絡が取れない状況だったという。コロナ感染が疑われる場合の対応は、地域の公衆衛生を担う保健所が窓口となっている。しかし、感染爆発が起きている地域では保健所の業務がひっ迫、患者への連絡に時間がかかり、自宅療養者への支援が滞りがちになっているのが現状だ。

「保健所につながらなければPCR検査はもちろん、医師の診察も受けられない。いかなるサポートにもアクセスできないんです。そのため行政が把握できていない感染者も数多くいるように思います。保健所のみなさんは昨年からめちゃくちゃ頑張ってくださっているけれど、もうずっとパンク状態が続いていて、増員をかけるにしても限界がありますよね。保健所だけを窓口にした現行制度の怖さはあると思います」

「塩対応」とは逆の人間的な支援を

 コロナ禍は深まる一方だ。仕事を失った。生活が苦しい。誰にも頼れない――。そうした苦境にあえぐ人たちにも、七尾さんは支援を惜しまない。

「フードレスキューは基本的に自宅療養者が対象だけど、そうでないからといって断ったことは1度もありません。失業して困窮していたり、孤立していたり、本当に困っている人しか連絡して来ないんですよ。応募の際に“今、必要なもの”を書いてもらうんですが、その文面でいたずらじゃないってわかるんです。自宅療養者だったら、おかゆとか、(経口補水液の)『OS1』とか。生活が困窮している人の場合、お米やレトルト食品といった固形の食べ物をリクエストされることが多いですね。

 結構、手厚くやっているんです。1件につき1万円以上の食料を送ったりするんで。お米を頼んできた人に、ふりかけもつけたりする。レトルト食品もカレーばかりじゃ飽きるだろうって、つい中華丼も足しちゃう。“職場でパワハラに遭って、失業して……”などとメッセージをくれる人もいるので、少しでも前向きになれるかもしれないな、と思ってサービスしています。出費は増えちゃうんですけど、世の中に少しぐらい塩対応の逆っていうか、人間的な対応があってもいいんじゃないかと思って」

 食べ物以外のリクエストにこたえることも多い。頼まれた品物を探し選ぶところから、七尾さんは楽しんでやっていると話す。

「自宅療養中のシングルマザーの女性に“子どもが外出できず退屈しているから”と、クロスワードパズルの雑誌を頼まれたこともありました。ほかにもコロナ以外の深刻な疾患で苦しんでいた方には、特に頼まれたわけではないですが、こちらからよさそうな本を見繕って、食料と一緒に送ったりもしました。大変という感覚はないです。もともと相手のことをあれこれ考えながら歌を作ったりするのが好きだったので、その延長ですね」