ずっと味方、ずっと愛してくれる“沼”の先駆者
『あぐり』望月エイスケ(野村萬斎)
「ずっと語り継がれている朝ドラ男子といえば、やっぱり『あぐり』のエイスケさん(野村萬斎・55)。つかみどころのない不思議なキャラで、狂言という別の畑からキャストを引っ張ってくるのはNHKならでは。いい意味での異物感、浮き立つ魅力がありました」
'97年に放送された『あぐり』。作家・吉行淳之介と女優・吉行和子の母である美容師、吉行あぐりがモデルで、ヒロインのあぐりは田中美里が演じた。最高視聴率は31.5%。
「もともとは“他校の男子学生へ恋文を渡してほしい”とヒロインが頼まれて。それがエイスケさんなんですが、初対面の態度がなかなか嫌な感じで。しかも、小麦色の肌のヒロインを“闇夜のカラスちゃん”と挑発したり。今の時代だと問題視されそうですけど(笑)。
結婚後も放浪癖があったり、浮気性だったり。どうしようもないところが多々あるんだけど、たまにやさしい顔をするからホロッとなっちゃう(笑)。
愛人作って、借金残して、ダメなところだらけなんだけど、やさしくて。ずっと味方でいてくれて。ずっと愛してくれる人の魅力、という感じですね」
そんなエイスケさんは女子のハートをわしづかみ、爆発的人気に。死期が近づいてくると“もっと生かして”“死なせないで”との延命嘆願がNHKに殺到した。
「ネットが普及していない時代ですから電話やFAX、手紙で。SNSでつぶやくよりも手間がかかる分、情熱を感じますよね。今で言うところの“〇〇沼”の先駆けだと思います」
自分からは言わない。そのズルさも素敵なんだから!
『カーネーション』周防龍一(綾野剛)
「朝ドラで不倫を描くことがそもそも画期的で、すごく話題になりました。綾野剛さん(39)演じた不倫相手である周防さんは、魅力のポイントだらけでした」
『カーネーション』('11年~'12年)は、デザイナーであるコシノ三姉妹(コシノヒロコ・ジュンコ・ミチコ)の母親・小篠綾子をモデルにした物語。情熱的なヒロイン・糸子を尾野真千子が演じ、最高視聴率は25%。
「出会いは繊維組合の宴席。むさくるしいおっちゃんたちの中で、周防さんには明らかな輝きが。三味線を弾く姿だけでも、とても色気がありました。
テーラー職人としての腕の確かさがあり、時には手作りのゼリーを持ってきてくれたり。女性が好きな要素がたくさんある男性ですね。それでいて、自分からはせまって来ない。
ヒロインに“好きでした”って言わせたのち、去り際に“おいも好いとった、ずっと”と言う。この後出し感! お互いに気持ちが高まっているのがわかっていながら、相手に言わせるズルさ。別れるときもやっぱりヒロインに言わせる。そんなところも魅力でした」
『カーネーション』の2年前、綾野は『Mother』(日本テレビ系)で衝撃的な幼児虐待男を演じている。そののちの周防さん役とあり、振り子は大きく振れ、たった3週の出演とは思えぬほどの印象を残した。
何度生まれ変わってもプロポーズされたい
『芋たこなんきん』徳永健次郎(國村隼)
「朝ドラの胸キュン男子にはなかなか出てこないというか、世の中の女性が“キャー!”となる人ではないんですが、個人的にはベストだと思っているのが『芋たこなんきん』の健次郎さん。国村隼さん(65)が演じました」
'06~'07年放送の『芋たこなんきん』。作家・田辺聖子の半生がモデルで、ヒロインの町子には藤山直美が抜擢された。最高視聴率は20.3%。
「健次郎さんは“カモカのおっちゃん”と呼ばれるバツイチ開業医で、5人の子持ち。ヒロインと出会うシーンでは“女が小説家なんて”と馬鹿にする感じだったのが、だんだん口ゲンカする仲となり、プロポーズする。
その言葉が“僕と結婚したら面白い小説、ようさん書けるよ”。最初は小説を書くヒロインを認めていなかったのに、“小説の題材になるよ”という口説き。女性の仕事を尊重していて素敵です。
あと、夫婦2人のシーンは、お茶の間でおしゃべりしながらお酒を飲んでいて。ヒロインの話を“あんたアホやなぁ”って健次郎さんはずっと笑いながら聞いている。そんなふうに月日を重ねる夫婦像、すごくいいです」
健次郎さんは病気で先立ってしまうが、ヒロインはその遺影の前でお酒を飲みながら、こうつぶやく。
「“この先何度生まれ変わっても、必ずプロポーズしてくださいね”。それだけで泣いてしまいそう。めちゃくちゃ素敵な夫婦です」