笹井さんによると、金森さんのような20代は自宅がゴミ屋敷化する初期段階だと言う。
「ゴミが身長ほどに溜められている状態になるまでには、およそ20~30年かかります。成人し、実家から独立した後で溜めこんでいくので、40代以降の住人が多いんです」(笹井さん、以下同)
金森さんも放置したら20年後、とんでもないことになっていたのかもしれない。
ゴミ屋敷から大量の薬が
「片づけられないと思ったら早めに第三者に頼ったほうがいい」
金森さんのように知り合いや業者に頼むのも一案。また医療機関で「認知行動療法」を受けるのも、重度なゴミ屋敷を防ぐポイントだ。ゴミ屋敷に陥るのは、『孤独』と『独居』というキーワードがある。
「介護が必要な高齢者や生活保護世帯などには、意外と行政やヘルパーが介入しやすい。一方で、給与や年金で収入があり、自力で生活していける人ほど、内面は孤立している。それは現場で気付いたことですね。
実は、教師や公務員、医療関係者といった社会的地位のある人や、大手企業に勤める人でも、自宅がゴミ屋敷という人がいるのです。周囲に人がいて社会生活を送れていても、内面は孤独を抱えているということですね」
笑顔で明るく振舞っていた金森さんも、内面には寂しさや孤独を抱えていた。
孤独から脱却しようと婚活をしたとしても、「自宅がゴミ屋敷」という事実はなかなか明かせない。自分のコアな部分をさらけだせないまま、仮に交際に至ったとしても、苦しさが増していくだろう。金森さんのようなケースは稀なのだ。
笹井さんは「今後のゴミ屋敷の増加」を危惧する。
「単身世帯が増えており、オンライン化も進んでいます。人とのつながりが希薄になり、ただでさえ人と壁をつくりやすいゴミ屋敷の住人は、周囲から一層サポートを得られにくくなるでしょう」
溜まったゴミの中で生活することは不衛生で、細菌に感染する恐れがある。ゴミの山から転落して亡くなるケースもある。ゴミ屋敷は命をも脅かすのだ。
そして荒れた部屋は住民の精神も蝕んでいく。
「ゴミ屋敷の住人は自暴自棄になっていると感じました。ゴミの中から、大量の薬が見つかることがよくあります。例えば糖尿病やぜんそくなどを患っていて通院していても、服薬していないんですね。どこか“自分なんてどうでもいい”と社会から距離を置いてしまっていると思います」
冒頭の金森さんの自宅は、作業員5人が5時間以上をかけて、部屋の中が空っぽに。そのかわり2トントラックの荷台は一杯になった。
すっからかんになった部屋に入り、金森さんは、「新しい生活では散らからないように注意したい」と決意を新たにした。その表情はどこか晴れ晴れとしたものだった。
新しい生活が物ではない『モノ』で満たされることを願わずにはいられない。
取材協力/ゴミ屋敷バスター七福神 http://777fukujin.com
お話しを聞いたのはジャーナリスト・笹井恵里子さん
『サンデー毎日』記者を経て、2018年よりフリーランス。医療や健康を中心にさまざなまジャンルでの取材、執筆活動を行っている。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版)、『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書)などがある。