《茨城ダッシュは交通違反です》
茨城県警が公式ツイッターでそう呼びかけ、話題をさらっている。
「茨城ダッシュ」とは、交差点を右折する際、信号が赤から青に切り替わった瞬間に急発進し、対向車線を直進する車よりも先に猛ダッシュで右折すること。だが本来、交差点では直進車や左折車の優先がルールだ。県警がツイッターで指摘したとおり、「茨城ダッシュ」は反則金6000円(普通自動車の場合)が科せられる、道路交通法に違反した行為なのである。
重大な事故につながるとして、これまでにも県や県警が注意喚起をしてきたが、地元ではまかり通ってしまっているのが現状だ。
このように、地域の名前がついて「ご当地ルール」と化している危険運転は、実は茨城県に限ったものではない。対向車が左折する隙を見て、ほぼ同時に右折する「松本走り」は、長野県松本市の菅谷昭・前市長が、2019年の在任時に「根づいているなら残念。直していかなければならない」と記者会見で語り、注目を集めたこともある。
そのほか山梨県の「山梨ルール」、愛媛県の「伊予の早曲がり」もまた右折時の危険運転として有名だ。
親から子どもや孫へ
「『茨城ダッシュ』のような名前こそついてはいませんが、同様の危険運転は、首都圏以外の地域では日常的に行われています。公共交通機関が充実していないエリアに多く、とりわけ茨城のように、大都会の周辺に位置している地方都市では、頻繁に見かける行為ですね」
そう語るのは、自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さんだ。
加藤さんによれば、地方都市は車道が広く、渋滞も少ない。見通しがよく、交差点では右折しやすい。さらには車社会で頻繁に車に乗るため、運転時の緊張感が損なわれがちになるという。
そうしたことから交通マナーへの意識がおろそかになりやすく、たとえ交通違反とわかっていても「茨城ダッシュ」が容認されてしまったのではないかと指摘する。
「交通マナーへの意識という点では団塊世代のドライバーに問題のある人が目立ちます。この世代が車に乗り始めた1970年~1980年代は、マイカーを持つようになり車社会が急速に発展し始めた時期。車が好きで運転に自信がある人も少なくない。運転技術を過信したり、自分はすごいんだといきがってみせたりして、交通マナーを軽視しやすい傾向があるのです。
そうした運転への姿勢は同乗する子どもや孫へと引き継がれてしまう。『茨城ダッシュ』のような危険運転が地域で定着する背景には、こうした原因があるのではないかと思います」(加藤さん)
一方、高齢社会の影響を指摘するのは、交通ジャーナリストの今井亮一さん。
「地域に高齢ドライバーが多いと、対向直進車が発進するまでに時間がかかることがあります。そのためついイライラして、急発進して右折してしまう。『茨城ダッシュ』の背景には、そうした事情もあるようです」