朝、目覚めないような死に方をしたいなと思う
10月22日に米寿を迎えたばかり。88歳で第一線で輝き続ける女優は、もちろん稀有だ。
「米寿ってそんなに大変なことですか? そこまで生きてきちゃっただけ。だんだん自分の周りにいた人が亡くなっていくでしょう。昔は近所に、池内淳子ちゃんも住んでいたんだけど、早くに亡くなってしまって……。でもね、いいの。楽しく生きていれば、いつお迎えが来たっていいじゃない? 明日の朝、目が覚めないような死に方をしたいなと思うわね。人に迷惑をかけないように」
死生観にも、その快活な人柄と威厳が感じられる。草笛のように素敵に年を重ねたい──。そう憧れる女性は多い。
「そうですか? “素敵に”じゃなくて“元気に”でしょう? 元気がいちばん、楽するな! その心は、やっぱり身体を動かしていなきゃダメってこと。自宅は3階建てですが、毎日の階段の上り下りで自分の今の体力がわかる。上るときより、下りるときのほうが股関節のためになるのよ」
その若さの秘訣も、ぜひ知りたい!
「物事は面白く考えたほうがいいんじゃないかしら? 私、バカばっかり言ってますから(笑)。だから、一昨年『ゆうもあ大賞』をいただいたのかも」
大御所なのに威圧感はまったくなく、上品でユーモラス。表情豊かで、機知に富んだ人柄は、話すほどに親しみが湧く。
「そうかしら? でも、本当は明るさも包容力もないのよ。夜になるとひとりで泣いてるし……な〜んてウソばっかり(笑)」
老いへの嫌悪感? しょっちゅう思っています
誰もが時間の経過とともに感じる老い。ずっと美しい草笛でも、老いへの嫌悪感を感じたことはあるのだろうか?
「それは、しょっちゅう思っています。朝、目が覚めたときから老いとの戦いですもの。私は朝起きると、仏様と自分とお手伝いさんのために美味しいお煎茶を淹れるの。そこに梅干しを入れて飲む。“朝茶は難を逃れる”という祖母の教えをずっと守っていて、身体も頭もスーッとします。たとえ出かけない日でも、家の中でケガをしたり、物を落として壊すことがないように、毎日飲んでいます。
ただ、そのお煎茶を淹れるためには、準備が必要。朝、目が覚めると、まずこわばっている指を1本ずつほぐす。その後は耳を引っ張る……そんなオリジナルのエクササイズで身体を温めて、ベッドの中で動ける身体にしてから起き上がるの。ゆっくりと、用心深くね」
お風呂では、のどの筋肉を鍛える独自エクササイズを。
「誤嚥性肺炎にならないために。そして1日の終わりには、補聴器を入れているから耳もちゃんと揉みほぐす。誰に言われたわけでもないけれど、けっこう細かいことをやっていますね」
日々の努力を欠かさぬ草笛に、目標や夢を尋ねてみると、
「何もないです(笑)。ただ、できる限りのことはしたいと思っています。毎日、天国の両親に話しかけていますが、今は“まだもう少し私をそっちに誘わないで”って言っています。だって来年、舞台が決まっているから。詳細はまだ言えませんが、私にとって“生まれて初めて”ともいえる役で。この話はまた今度、じっくり」
その陽のエネルギーに圧倒されるばかりだった。
●草笛光子、毒蝮三太夫になる!?
劇中で、篤子(天海祐希)の友人(柴田理恵)の家のトラブルを救うべく、芳乃(草笛光子)が、友人の父親(毒蝮三太夫)に扮する場面がある。
「女性版・毒蝮(笑)。なかなか、あのお顔に似せるのは難しかったです。でもやっぱり女優ですから、扮することが嫌いじゃないの。
その場面でハプニングがあって、前歯が取れてしまって。これが大きなスクリーンでアップになるのか……と思うと、ゾっとします。“これからお仕事なくなるな”って(笑)」
<ヘアメイク/中田マリ子(ヘアーベル) スタイリング/市原みちよ>