「そちらさまから結構なお品物をお送りくださいました。誠にありがとうございます」
やわらかな口調でそう話すのは、今年81歳になった紀子さまの父・川嶋辰彦さんだった。そして、「お詫びを申し上げないといけません」と切り出した。
「マスコミュニケーションは、社会的に大事なお仕事かと存じます。ただ、私のささやかな“こうしたい”というお気持ちを、もしお許しいただければ、マスコミュニケーション関連の方のお品物は、理由など関係なく、ご遠慮申し上げるようにいたしております。ご無礼をお許しのうえ、ご返送させていただいてよろしゅうございましょうか?」
「今でも木を登りたい」
川嶋さんは「言葉が強く申し訳ございません」と、謝りつつ、返送を提案。記者が“着払い”を申し出ると、
「僕のお小遣いを眺めまして、もしそういうことでしたら、そのようにさせていただきますが、お小遣い箱にはたぶん、入っているかと思います。
1トンくらいの隕石をお返しすることになると、僕のお小遣いでは、重量制限で難しくなりそうです。将来、そういうお見苦しいことが発生しましたら、喜んで着払いでお返し申し上げたく存じますが、今回は、そのお気持ちをありがたく拝聴申し上げて、先のような形で進めさせていただければと存じます」
周知のとおり、川嶋さんは学習院大学の名誉教授。研究者らしいユーモラスな返答が光りつつも、一般的な金銭感覚にどこか親しみを覚える。
20代の記者に対し、懇切丁寧な対応を続ける川嶋さんは、「これだけでお別れのご挨拶というのは寂しゅうございますので」と、自身の趣味について語りだした。
「今はできませんが、少年のころは木登りが大好きだったんです。今でも登りたいと思いながら夢を描いております。枝ぶり次第で、手の位置よりも足の位置が高くなる。そんなことを思うだけでも、僕自身が木登りをしているような楽しみに浸れます」
童心に帰ったかのような声で楽しそうに話し進める。